2008年06月25日

要介護高齢者のQOLとケアの質に関する一考察 -QOLケアモデルの介入調査をもとに-

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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要介護高齢者の生活の質(QOL)にとって、介護の担い手不足の問題とケアの質的向上の問題は極めて重要である。両者の問題は互いに糸を引き合う関係にあり、現場における介護の人員不足感はケアの質の低下につながり、ケアの質の定義が曖昧なことは介護職員の働きがいの低下を招く可能性がある。ケアの量と質の問題を同時に解決していくためには、要介護高齢者のQOLの維持・向上と介護職員の働きがいの両者に働きかけるケアの方法論が求められる。
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そこで要介護高齢者のQOLを意識したアセスメントツールおよびケアにもとづく「QOLケアモデル」を考案した。これは要介護高齢者の特に精神面・社会面に積極的に働きかけるケアである。アセスメントツールはWHOが開発した一般生活者向けのQOLスケールWHO/QOL-26をベースとして、要介護高齢者向けにアレンジしたものである。
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特別養護老人ホームをフィールドとしたQOLケアモデルの介入調査においては、入所者・介護職員・施設のそれぞれの立場からその有効性・実効性が示唆された。入所者の多くは施設生活で陥りがちな「孤立感」「退屈感」「無力感」を抱いているが、QOLケアにより精神面での充実がはかられ、身体的健康面にもプラスの影響が期待された。介護職員は三大介助を中心に多忙を極め、ケアマネジメントによる精神的な拘束感も強い状況にあるが、QOLケアにより要介護高齢者の変化の気づきが働きがいにつながる可能性がみえた。施設においては職員教育素材としての活用が期待された。
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ケアの質の向上を阻む要因としては、ケアのシステム化・業務化の傾向が挙げられる。QOLケアモデルの検証結果等からも、要介護高齢者としっかり向き合うことが結果的にケアの効率性を高める可能性が高い。逆に言えば、供給者の効率性を優先して一方的に提供されるケアは非効率になっている可能性がある。
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入所者の笑顔や落ち着く様子など要介護高齢者の変化をみることが介護職員の働きがいとなる。“要介護高齢者から元気・活力を得るケア”を目指すことが、介護職員の働きがいと要介護高齢者のQOLの視点からも有用と考える。これはまたケアの量と質の問題に対する一つの打開策の提示でもある。

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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