2008年06月06日

6月ECB政策理事会~インフレ警戒強化、7月利上げに布石

経済研究部 上席研究員   伊藤 さゆり

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■見出し

・物価上振れ長期化を受け、利上げバイアスに転換
・ECBスタッフ見通しはインフレ見通しを大きく上方修正

■introduction

・インフレ圧力の増大に対処するための利上げ再開を示唆
欧州中央銀行(以下、ECB)は5日開催の6月の政策理事会で4%での政策金利の据え置きを決めた。今回の理事会での据え置き決定自体は大方の予想通りであったが、インフレ警戒を強化し、昨年6月の利上げを最後に据え置いてきた政策金利(図表1)を7月にも小幅に引上げる可能性を示唆した。
ユーロ圏では、域内景気の減速ペースは想定通り緩やかなペースに留まる一方、原油・食糧など国際商品の価格高騰で消費者物価上昇率(以下、CPI)は7カ月連続で3%台で推移している(図表2)。国際商品価格が高止まり、新興国の力強い成長が続いて、ユーロ圏の物価の上振れ期間は従来の想定以上に長期化すると見通されるようになったことで、ECBは、かねて表明してきたとおり、中期的な物価の安定維持を通じて成長と雇用の創出に貢献するスタンスを明確にした格好だ。

・トリシェ総裁は物価安定重視の姿勢とともに不確実性の高さも強調
トリシェ総裁の声明及び質疑応答のポイントは以下のとおりであり、従来同様の景気判断を維持しながら、インフレ率の上振れが長期化する見通しとなったことが政策スタンス転換の理由であることを示した。
(1) 物価のリスクについて「明確に上振れ」という前回の表現に「さらに高まっている(increased further)」を加え、警戒を強めた。「エネルギーと食品の押し上げによる足もとの物価の上昇圧力を「短期的(short-term)」という判断から「より持続的(more persistent)」に修正した。見通しも、「数ヶ月間は2%を大きく上回る状況が続き、2008年中に緩やかに低下する」から「3%を上回る状況がしばらく続き、2009年にごく緩やかに低下する」へと幅、期間とも上方修正した。後述のECB・ユーロシステム・スタッフの見通しも同様の内容となっている。
(2) 物価の上振れ要因は、従来同様「原油高・食品価格上昇」、「管理価格や間接税の引き上げ」、「賃金と価格設定」とした。「稼働率が高く、労働市場がタイトな状況」で賃金上昇率は上振れやすく、「賃金交渉の動向を注意深く見守る」とし、特に、域内の幾つかの国で見られる物価連動型の賃金設定は「賃金と物価のスパイラルにつながる」ため「回避すべき」として繰り返し牽制した。
(3) インフレ警戒のスタンスに関して、「警戒を高めている(It is in a state of heightened alertness)」という表現が新たに挿入、「中長期的なインフレ期待の安定化」に向けた「強い決意(strong determination)」を示した。
(4) 経済分析では、ファンダメンタルズは「健全(sound)」、景気は「減速はしながらも成長は続いている」という評価を始め、従来同様の判断が示された。うち、ユーロ圏の輸出をサポートする要因として、一旦削除された後、4月に復活した「新興国の成長」は「強い(strong)」から「強固(robust)」へと引上げられた。
(5) 景気の先行きに対しては、「景気見通しの先行きの不確実性は高く、下振れリスクは広がっている(prevail)」とし慎重な見方を維持した。
(6) 4月のマネーサプライ(M3)は前年同月末比10.6%で前月の10.1%から再加速、民間向け貸出は同10.8%から同10.6%にわずかに減速したが、なお水準が高い。「金融混乱による深刻な信用収縮は生じていない」という判断と、流動性は「中長期的な物価上振れリスク」との位置づけを維持した。
(7) 質疑応答では、理事会では即時利上げや先行きの利上げを求める意見があったことを明らかにし、「7月の小幅利上げの可能性を排除しない」、「確実ではないが可能性がある」として次回理事会での25bpの利上げに布石を打った。

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経済研究部   上席研究員

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

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