2008年05月09日

5月ECB政策理事会は据え置きを継続~ユーロ圏16カ国に拡大へ

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■見出し

・ECBは物価と景気両面での強い警戒を維持
・欧州委、ECBはスロバキアのユーロ参加条件適合を認定

■introduction

欧州中央銀行(以下、ECB)は8日開催の5月の政策理事会で4%での政策金利の据え置きを決めた(図表1)。
最近の経済指標では、ドイツ経済が減速しながらも底堅さを保つ一方、スペインでは住宅ブーム終焉の影響が広がりを見せるなど、景況感や雇用情勢などの面で、域内の温度差が強まっている(図表2)。他方、エネルギーと食品価格の上昇による物価の上昇もあって(図表3)、個人消費は総じて停滞している。このように国ごと、部門ごとの温度差はあるものの、全体でみると、「景気は減速方向にはあるものの、成長は続いており、価格転嫁や賃金設定を通じたインフレ圧力もなお根強い」という従来の判断を維持しうる状況であったことから、事前の段階で、政策金利の据え置きは確実とみられていた。
今回のトリシェ総裁の声明及び質疑応答のポイントは以下のとおりである。4月は、物価の上振れリスクと金融混乱の影響による景気下振れのリスクの双方に対して警戒を引上げたが、今月もトーンは同様で、次の一手に対する言質を与えず、政策的な自由度を確保した。
(1) 物価の上振れは「かなり長い期間続くと見込まれる」とし、リスクは短期的にも中期的にも「上振れ」という判断を維持した。
(2) 物価の上振れ要因としては、「原油高・食品価格上昇」、「管理価格や間接税の引き上げ」、「賃金と価格設定」を挙げた。「稼働率が高く、労働市場がタイトな状況」で賃金上昇率は上振れやすくなっているとして、「賃金交渉の動向を注意深く見守る」とした。
(3) インフレ警戒のスタンスに関して、「二次的影響を抑制し、中期的な物価の上振れリスクが現実化しないことを引き続き強く約束する」という先月同様の強い表現を用いた。
(4) 経済のファンダメンタルズに関しても、「健全(sound)」で「減速しているが成長は続いている」との表現を踏襲した。ユーロ圏の輸出をサポートする要因として、一旦削除された後、4月に復活した「新興国の力強い成長」という文言は今月も用いられた。また、投資の押し上げ要因としては「高稼働率と収益力」を維持する一方、「銀行ローンの供給が制約されている兆候が見られない」という部分は削除された。また、個人消費については「雇用、労働参加率の上昇、失業率の低下」が下支え要因になるという従来の見方を維持しつつも、「エネルギー価格と食品価格の上昇が購買力を削いでいる」として期待ほどの伸びが見られない理由を説明した。
(5) 景気の先行きに対しては、「景気見通しの先行きの不確実性は高く、下振れリスクは広がっている(prevail)」とし慎重な見方を維持した。金融混乱の実体経済への影響は、「以前想定されていた以上のものになるリスクがある」として警戒を強めた。
(6) 3月のマネーサプライ(M3)は前年同月末比10.3%、民間向け貸出は同10.8%で減速傾向が続いたが、なお水準が高いことから、流動性に関しても「中長期的な物価上振れリスク」という判断を維持した(図表4)。
(7) 質疑応答の中で、今回の決定も「全会一致」であったことを明らかにした。

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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