コラム
2008年04月18日

回収率100%なるか? ~ スタートした1億人アンケート

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1億人に配布して、回答率100%を目指すアンケート。それは可能だろうか?

アンケートの概念を広くとらえれば、次のような事例を考えることができる。

まずは国政選挙である。投票所に出向く必要がある点で一般的なアンケートとは異なるが、2007年7月の参院選の選挙区選挙では、全国の有権者1億371万人に対して投票者数は6,081万人で、投票率は58.64%であった(明るい選挙推進協会ホームページより)。次に国勢調査がある。原則として調査員が各家庭に配布し回収も行う、いわゆる訪問留置法の調査方法をとっている。2005年の国勢調査で所定期間内に調査票を回収できた割合は、全国平均で95.6%で、都道府県別の最低は東京都の86.7%であった(総務省ホームページより筆者作成)。

そして、現在行われているのが、ねんきん特別便である。ねんきん特別便というと、自分の加入履歴が送られてくるだけという印象が強いかも知れないが、実際には記録間違いの有無にかかわらず、全員が確認結果を回答することになっている。この点で、一種のアンケートといえよう。ねんきん特別便は、いわゆる宙に浮いた年金記録5,000万件を正常化するための方策として、2007年12月に開始された。今年3月までは、宙に浮いた記録と結びつく可能性がある1,000万人に先行的に送付され、今年4月から、それ以外の加入者と受給者9,500万人への配布を開始したところである。この結果、本年10月までに、20歳以上の国民1億人に対してねんきん特別便が届けられることになる。そして政府は100%の回収を目指しており、例えば会社等に勤める人の分は、事業主に配布と回収、進捗報告を依頼するなどの方策をとる予定である。

このような大規模な調査だが、回答票から得られる情報は限定的である。全員に回答してもらうのは、連絡先(氏名、フリガナ、生年月日、住所、電話番号)と、特別便に記載された加入履歴に漏れや間違いがあるかどうかである。さらに、漏れや間違いがあった人にはその内容、1996年までに旧姓で加入していた人にはその旧姓を回答してもらう。確かに、ねんきん記録の整備には、上記の内容だけで十分だろう。しかし、せっかくここまで大規模に調査するのだから、年金制度の解説や、将来のサービス提供に役立つようなアンケートを同時に盛り込んではどうだろうか?

2007年3月から35歳到達者に先行的に送付されていたねんきん定期便では、加入履歴の他に、公的年金には老齢年金以外に障害年金や遺族年金もあること、公的年金は亡くなるまでの終身保障であることなどが盛り込まれていた。これは、過去の調査でこれらの公的年金の特徴が余り知られていなかったことへの対策であったが、ねんきん特別便では盛り込まれていないようである。ちなみに、1999年から国民宛の年金通知を開始しているスウェーデンでは、送付後に1,000人を対象にしたアンケートを実施し、その結果を元に翌年の通知の内容やデザインを変える取り組みを行っている。

冒頭で述べたように、政府が1億人もの国民に直接情報を伝えて返答をもらうようなコミュニケーションの仕組みは、他にほとんどない。分量が多すぎて肝腎な記録確認ができなくなってはいけないが、可能な範囲で情報提供やアンケートを盛り込んではどうだろうか。特別便のあとに再開される定期便においても、アンケート結果の集計結果を元に通知内容を改善したり、個人の回答結果を元に個人の知識や意識にあわせた情報を提供していくことで、国民の年金不信が少しでも改善されていくことを期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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