2008年03月26日

家屋に係る固定資産税評価について(2) ~2009年度評価替えに向けて~

社会研究部 土地・住宅政策室長 篠原 二三夫

大柿 晏巳

浅田 義久 日本大学経済学部教授

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1.
家屋(4)の固定資産税評価について、納税者である不動産業界の問題意識を整理した結果、大きく分けて、(1)評価額は簿価に比べて高く評価替えを経てもほとんど下がっていない、(2)立地や用途、構造などが類似しているのに家屋や市町村間で不均衡があるのではないか-という論点が得られた。これらは重大な問題の所在を示唆しており、家屋の固定資産税評価の実態とあり方については十分に調査し議論する必要がある。本論では、これらが個々の家屋の個別事情によるのか、評価制度自体に問題があるのかを、家屋の評価方法である「再建築価格方式」を見直した上、次のように各視点から問題の所在を整理し論点や課題を出してみた。
2.
実態調査からみた問題点:新築時における評価額は結果として簿価とそれほど乖離していないが、再建築評点時における判断根拠や計算過程の明確化等、納税者に対する情報開示を一層進めていくことが重要である。一方、在来家屋の場合、(1)建築時期が古いほどその後の建築費の高騰期に評価された家屋の評価額は下がらず継続し、(2)バブル期に新築し評価された物件については、その後の市場価格の著しい下落にもかかわらず、評価時の再建築費評点補正率の低下が少ないため、納税者の負担感が増した可能性がある。したがって、家屋評価の仕組みにおいて、再建築費評点補正率や経年減点補正率を見直す余地があるのではないか。
3.
自治体における家屋評価の問題点:自治体の担当者から次のような状況を聴取した。(1)現制度のままでは納税者に説明しにくいため、法がいう「適正な時価」を説明できる簡明な評価方法を強く望んでいること。(2)納税者に分かりやすい制度にするため、「比準評価による簡素化」や「取得価格方式による評価」、「毎年の評価により市場価格を反映した評価」などを検討したが、市町村独自の評価基準を設けるのは難しく、財政への影響が懸念され動きにくい。
4.
不動産鑑定からみた問題点:不動産鑑定と固定資産税の評価方法を比較した結果、次の論点を得た。(1)前者では3つの手法を駆使するが、後者では再建築価格方式だけを用いる。複数の手法を用いるべきではないか。(2)前者では非木造で30年程度を耐用年数とみるが、後者では65年を前提としている。この点について、合理性や整合性が説明できるのか。(3)後者では損耗減点補正や需給事情による補正制度があるが、ほとんど使われていない。一方、前者では経済的耐用年数や観察減価が使われている。前者の様に観察減価手法の採用を検討してはどうか。(4)後者では残価率20%をみるが、前者では経済的価値のない物件の評価はゼロとなる。20%が最小限の利用価値によるなら、観察減価手法を採用すべきではないか。
5.
裁判例からみた問題点:固定資産税評価をめぐって、平成15年6月の最高裁判決は、宅地評価について「固定資産評価基準に従った評価であっても賦課期日における客観的交換価値を上回れば違法」とし、平成15年7月の最高裁判決では、家屋評価について「特別な事情の存しない限り、固定資産評価基準に従った評価は『適正な時価』と推認」できるとした。宅地と異なり家屋には地価公示のような公的指標がないため、「特別の事情」という抽象概念をめぐる争いがあり、定義自体も明確ではない。「特別の事情」の具体内容を納税者に予め示しておくか、その不存在をむしろ課税団体が納税者に対し立証すべきではないか。
6.全体としての論点整理
(1)客観的な指標がない家屋の「適正な時価」を得るために、再建築価格方式を見直す必要がある。その理由の第1は、再建築価格方式では建築後の年数経過により評価額が下がらない場合があるからである。現行方式では、建築費の高騰が評価額に直接反映する上に、再建築価格を下げる「経年減点補正率」は、20%という高い残価率と長い耐用年数によって機能しにくいことが指摘できる。
第2に、在来分家屋の評価が再建築価格方式に基づくとは言え、評価替えした価額が前評価年度の価額を上回った場合は前評価年度の価額に据え置かれる仕組みのため、30年以上も課税標準が下がらない事例があり経年減点補正の意義が乏しいことに加え、一度高水準の評価を受けると、長期に渡って過大な税負担を余儀なくされる事例もあるからである。
第3に、司法の場や不動産鑑定家の間でも、在来分家屋の評価については、(1)評価替えに用いられる一律の再建築評点補正率に合理性があるのか、(2)経年減点補正率算定の基準となる耐用年数と残価率20%に合理性があるのか、(3)損耗減点補正率や需給事情による減点補正率などはほとんど用いられていない-などが論じられており、速やかな対処が必要である。
第4に、評価基準に基づいて評価された価額が「適正な時価」と推認できるとしても、これらの点から行う評価の妥当性を立証できないとすれば、評価額が果たして「適正な時価」と言えるのかは疑問となるからである。
(2)再建築価格方式自体の妥当性が問題となるのは、高い残価率と長期の耐用年数に基づき設定された現行の経年減点補正率が下方硬直的であることにもよるが、根本的には、現行の固定資産評価基準が建築費の変動を反映する再建築価格方式一本であることに起因する。
納税者の理解が得られ公平性と透明性が確保されるような家屋の課税評価のあり方について、まずは、再建築価格方式の評価基準の部分的な見直し(評点表や補正率とその適用、残価率等)を具体的な議論の場にあげるとともに、中長期的には、(1)固定資産評価基準において、再建築価格方式だけではなく、取引事例比較法や収益還元法など、複数の評価方法を併用する方法の検討や、(2)多大な徴税費用を要する詳細複雑な評価方法ではなく、評価額を建築費用(あるいは取得価格)の一定割合とし、その水準から経年減価のみを適用し、建築後の物価変動を考慮しない制度にすること-などを、今後の課題として検討すべきである。

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