コラム
2008年03月25日

終身年金のはなし

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英国では、退職時までに年金原資を積み立てる商品は一般的に「pension」と呼ばれ、その年金原資等で購入する一時払い終身年金は「annuity」と呼ばれている。古代ローマでは、一時金を支払って一定期間もしくは終身にわたって定期的にお金を受け取る契約「annua」があった。それに由来するらしい。(一般的に古代ローマ人は短命であったと言われるが、西暦200年頃、年金の相続価値を算出するために法律家のウルピアヌスが作成した生命表によると65歳男性(富裕層か)の平均余命は5.3年だったらしい)

わが国では、民間生保の年金受給者の多くが10年確定での受け取りを選択し、終身年金での受け取りは極めて少ない。米国、ドイツ、フランスも終身年金市場は決して大きくはない。世界的に見て、終身年金市場が比較的大きな規模を持つ国は、英国、オランダ、スイスといったところである。

英国は世界最大の終身年金市場を有しているが、制度的な要因もある。英国では、1888年頃から、退職した公務員の老後の貯蓄不足を懸念した終身年金の強制購入に関する議論が行われており、1920年代に入って一時金受取に課税する税制も導入された。その後現在まで、英国の人は積み上がった年金原資で終身年金を購入してきた。(ただし、近年、金利の低下による終身年金価格の上昇(一定の年金原資で購入できる年金額の減少)とともに、こうした年金強制購入規定は時代遅れではないかといった議論が起こり、規定の一部が緩和されるに至った)

一方、英国等一部の国を除いて終身年金があまり普及していない理由としては、早く死亡すると損といった意識や、不測の事態に備えて流動性を確保したいといった人々のニーズに加え、死亡率が想定より改善するリスクをヘッジする良い手法が存在しないといった保険会社側の事情等も指摘されている。

しかし、世界的に寿命はどんどん伸びている。予防やリハビリに注力した結果、元気な高齢者が増加し、今後、ますます寿命が伸びる可能性も否定できない。また、公的年金の給付の削減や医療・介護等の高齢者の負担の増加がすすむ見通しである。少しでも長く生きたい、周囲の人に少しでも長く生きてほしいと願う人は多いが、長生きすることの経済的負担増も無視できない状況になりつつある。米国でも終身年金はこれまであまり普及していなかったが、昨今、年金と介護保険とのセット商品における税制上の取り扱いが明確化されたこと等もあって、終身年金の販売プロモーションは増加しているようである。

ただし、生保会社にとって、死亡率が想定より改善するリスクに対する決定的なヘッジ手段は、残念ながら、今のところはないようである。長寿債券への投資、長生きリスクの証券化、長寿スワップ等の資本市場を通じた解決策も考えられてきたが、その規模は限定的である。

英国の保険会社は、こうしたリスクについて商品性そのもので対応することを考え、「有配当終身年金」(with-profits annuity)を販売してきた。有配当終身年金は、通常配当等で利差と同時に死差・費差も調整し、死亡率が想定より改善するリスクを顧客に一部負担してもらうという仕組みをもった商品である。資産運用リスクを顧客に転嫁したのが変額保険・年金であるとすれば、さしずめ、死亡率改善リスクを顧客に転嫁している有配当終身年金はその応用編であると言えるかもしれない。長い歴史の中から生まれた知恵だろうか。

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