コラム
2008年03月10日

福井総裁の5年間と新総裁を待ち受ける試練

櫨(はじ) 浩一

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1.臥薪嘗胆の前半

3月6日、7日に開催された金融政策決定会合は、福井総裁最後となるもので、結果は現状維持となった。少し早いが福井総裁の5年間を振り返ってみたい。

2003年3月20日に就任した福井総裁を待っていたのは、イラク戦争の開始という波乱だった。福井総裁は25日には新日銀法の下でそれまで開催されたことのなかった臨時の金融政策決定会合を開催して、潤沢な資金供給を行うというメッセージを市場に送って市場の安定を図った。その後も、福井氏の就任前には15~20兆円だった日銀当座預金残高の目標を引き上げ続け、2004年1月には30~35兆円にまで引き上げるなど、矢継ぎ早に追加的な緩和策を実施した。

日銀出身の総裁で慎重な金融政策の運営を行うのではと見られていたことからすると、予想外の大胆な金融緩和であり、思い切った政策運営に、強いリーダーシップ、迅速な対応と、国内のみならず海外からも高い評価を得た。

しかし、福井総裁の本心はどうだったのか。ひょっとしたら、大胆な金融緩和が高い評価を得たことを、むしろ面映く感じていたのかも知れない。日銀総裁就任以前の言動から考えると、いつの日か自らの手で量的金融緩和を解除して、金融政策を正常化しようという志を内に秘めた、臥薪嘗胆の日々だったのではないだろうか。

2.正常化は道半ば

消費者物価の下落傾向が改善を見せ始めると、デフレファイターとみなされていた福井総裁は変身を見せる。2006年3月には、量的金融緩和政策を解除して、無担保コールレート(オーバーナイト物)の金利を概ねゼロにするという、ゼロ金利政策に戻した。さらに、同年7月にはゼロ金利政策からも脱却して、無担保コールレートの誘導水準は0.25%に変更された。

金融政策の正常化に向けて意欲を示し続けたが、2007年2月には短期金利の誘導水準は0.5%に引き上げられたものの、その後は引き上げのタイミングを見つけることができず、現状維持が続いてきた。

金融政策の正常化を目指した福井総裁とすれば、量的金融緩和政策、ゼロ金利政策という異常な状況からは脱却したものの、短期金利の誘導水準は依然として0.5%という低水準であり、金融政策の正常化へは道半ばで道を譲ることは後ろ髪を引かれる思いではなかろうか。

3.新総裁を待ち受ける試練

消費者物価(生鮮食品を除く総合)は前年比で1%近い上昇となっているものの、その主因は原油価格高騰を背景とした石油製品の値上がりや、世界的な一次産品価格の上昇を背景とした食料品の値上がりという、コスト上昇によるものである。政府・日銀が目指してきた、国内需要の回復による需要サイドからの物価上昇という姿とは程遠い。

しかも、昨年夏ごろからは米国のサブプライムローン問題が世界に拡大して、世界の金融市場を揺るがす状況となった。米国経済は減速があきらかで、今年に入ってからは景気後退が懸念される状況になった。07年春頃に短期金利の誘導水準を0.75%に引き上げておけば良かったという声も聞かれるが、その後サブプライムローン問題は拡大したという状況の推移をみれば、利上げをしなかったことは正解だったと考えられる。

新総裁を待ち受けている経済状況も厳しい。福井総裁はいきなりイラク戦争という緊急事態に直面したが、新総裁も米国経済のリセッション入り、そして日本経済の景気後退という難しい局面にすぐに直面することになる恐れが大きい。経済がこれほど切迫した状況であるにも関わらず、新総裁がすんなりと決まるのかどうかさえ分からないというのでは、金融市場が弱気になるもの当然だろう。
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