コラム
2008年01月10日

存在感を増すユーロ

経済研究部 上席研究員   伊藤 さゆり

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導入から9年目に入った欧州単一通貨ユーロ。この間、欧州を中心に国際通貨としての利用が定着したものの、裏づけとなる経済や金融資本市規模が米国に比肩するという事実から期待されるほどには、ドルとの地位の差は縮小してこなかった。
   ユーロ圏の景気が停滞したことに加えて、参加各国のばらつきが大きい反面、景気格差を平準化するメカニズムが十分に備わっていないという、単一通貨圏としての構造的な不完全性が阻害要因ともなって、ドルの基軸通貨としての役割に慣性が働き続けたからだ。

しかし、サブプライム問題をきっかけとする米国の動揺が長期化、且つ、深刻化すれば、ドルに対する慣性効果が弱まり、これまで抑えられてきたユーロの国際通貨としての地位の高まりに弾みがつく可能性がある。すでに、昨年来、ユーロの対ドル高が進み、ユーロの先高感も根強いために、ユーロ圏外では、外貨準備などのユーロ建て運用比率を引き上げたり、為替政策運営における指標として利用したりする割合が高まってきている。

国際通貨としてユーロの地位が高まれば、ユーロを導入するベネフィットが拡大し、地域的な拡大が促される。ユーロを導入している国の数は、99年のスタート時点での11カ国から段階的に増加、今年初のキプロスとマルタの導入で15カ国となっている。スロバキアが2009年初の導入を目指しているほか、新規加盟国で最大の国として動向が注目されていたポーランドが、昨年10月の政権交代を機に2012年のユーロ導入を目指す積極姿勢に転じた。3期目に入ったデンマークのラムセン首相も、昨年11月に2000年以来となるユーロ参加の是非を問う国民投票を実施する意向を示すなど、ユーロ導入を見送ってきた欧州連合(EU)旧加盟国でも変化が見られるなど、ユーロの地位向上の循環の萌芽も見られるようになっている。

欧州の統合、あるいは構造改革の評価は、スピードや達成度に着目すると低くなりがちだ。ユーロ圏の構造には依然として不安定な面があり、共通政策の内容は、参加各国の利害調整の結果として妥協の産物となる。市場メカニズムが高度に発達している米国との比較では規制も多く、効率性、生産性で見劣りすることも理由だろう。

それでも、長期のトレンドで捉えれば、欧州の統合と改革が前進してきたことは間違いなく、欧州各国の長年の政策協調の積み重ねなくしてはユーロが定着することもなかっただろう。新興国の台頭という世界経済の秩序の変化に対して、EUは新興国を自らの制度に取り込み拡大することで、その存在感を維持し、高めようとしている。日本の対応は十分なのだろうか?

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経済研究部   上席研究員

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

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