2007年12月26日

わが国における認知症ケアの実情と課題 -「認知症緩和ケア」を視点に-

山梨 恵子

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わが国は、超高齢時代の到来に備えた介護支援サービスの拡充とともに、認知ケアの質向上と標準化が求められている。認知症ケアはグループホームや小規模多機能型居宅介護などの小規模サービスに期待が寄せられるところだが、事業効率、人材確保、医療連携体制などにおいて多くの課題が山積している。本稿は、今後さらに重度化が進む認知症高齢者の終末期支援において、本人のみならず家族にも係る精神的、身体的苦痛の緩和、すなわち「認知症緩和ケア」を推進する支援体制について考察するものである。

1.
1960年代から70年代における認知症高齢者は、特養、老人病院、精神病棟などの施設が受け入れ先となっていた。認知症に対する医学的な研究も進まない中で提供された問題対処型のケアは、認知症高齢者への抑圧的な対処でしかなく、利用者の混乱と不安をあおりながら悪循環を繰り返すこととなった。
2.
80 年代になると、本人を取りまく環境やケアの質こそが、認知症の状態改善を促す最も有効な手立てだと気づくようになる。以後、介護保険制度施行の2000 年に向け<て、わが国認知症ケアの方向性は大きく変わり、本人の暮らしの継続性や「寄り添う」「付き合う」「奪わない」「断ち切らない」といった関わりを重視するケアへと転換されてきた。
3.
現在、グループホームサービス利用者は全般的に重度化が進んでおり、2000 年に1割程度だった重度要介護者は、2006 年には2割程度まで増えている。身体ケア中心の支援から、認知症の特性に応じた新しいケアへと転換してきたグループホームも、重度化対応を迫られる逆戻り現象が起きている。
4.
入居者の重度化とともに課題になるのは医療連携体制である。認知症は居所を移動することで状態悪化を引き起こすことも多く、病院での点滴や医療行為の場面で、大声を出したり、行動障害などが現れてしまうこともしばしばある。医療現場での対応困難な状況や受け入れ拒否の実状に照らせば、自宅やグループホームに医療が届けられる仕組みが切望される。
5.
スウェーデンにおける認知症ケアは、医療と介護の支援の目的が一致しており、認知症ケアの標準化が図られている。在宅やグループホームでの医療連携もシステム化され、認知症の初期診断から看取りまでを包括的に支援する仕組みが整備されている。
6.
また、認知症緩和ケアの視点で、家族への教育が行われているという特徴的な試みもみられる。家族教育は認知症の人を理解し、適切な環境と対応を促す上で重要な取り組みとなり、関係性のケアを推進しようとするわが国においても取り入れていくべき視点である。
7.
認知症ケアの変遷、現状、海外の状況を通じて考察される わが国の今後の取り組み課題は、(1)市町村が主体的に取り組む地域啓発とケアの質の確保、(2)認知症高齢者の在宅介護を支える医療連携体制の推進、(3)認知症訪問看護サービスの推進、(4)介護職における終末期支援の教育と医療的ケアの規制緩和、などが考えられる。

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山梨 恵子

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