2007年12月07日

12月ECB政策理事会~広がりつつある理事会内での見解の相違

経済研究部 上席研究員   伊藤 さゆり

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■見出し

・6カ月連続で政策金利は据え置き
・ECBの経済・物価見通し
・様子見継続がメイン・シナリオ

■introduction

・短期金利は上振れ、物価上昇が加速する中で開催された12月の理事会
ユーロ圏では年末越えの資金需要からターム物金利の上振れが続いている。他方、11月のインフレ率(速報値)は、原油高による物価押し上げ圧力が一段強まったことで、前年同月比3.0%に急上昇し、当面は高めの推移が続くと見られている。
こうした中で、6日に開催された欧州中央銀行(以下、ECB)の12月の政策理事会は予想通り、6カ月連続の4%での政策金利の据え置き決定であった。

・トリシェ総裁はコメントの中で、原油高の二次的影響につながる動きを繰り返し牽制
理事会後の記者会見におけるトリシェ総裁のコメントの要旨は以下のとおりである。
(1) コメントの冒頭では、経済のファンダメンタルズは「依然として健全」という評価が維持されたが、今回、「経済活動の中期見通しは良好という見方を支持している」という文言は外された。景気のリスクは、引き続き「下振れ」であり、リスクとしては、「金融混乱がマインドや資金調達環境に及ぼす影響」、「原油、商品価格の一層の上昇」、「保護主義の圧力」、「世界的不均衡に関わる無秩序な展開」という序列も維持された。
(2) 経済分析では、「7~9月期の内需主導の0.7%成長はユーロ圏経済の持続力を裏付けるもの」とし、「10~12月期は7~9月期よりも鈍化するが、経済成長は続く」との見方を示した。経済の健全性を示す材料としては、「収益性」と「雇用の拡大と25年ぶりの失業率の低さ」を挙げた。
(3) 足もとの物価の急騰は、「原油価格と食品価格の上昇による」ことを明確にした上で、「賃金と価格設定を通じた二次的影響」を回避することが重要であることを強調した。物価のリスクは「上振れ」とし、10月から用いられている「物価の上振れリスクを抑制する用意がある(ready to counter upside risk to price stability)」という表現で利上げバイアスを維持した。物価の上振れ要因としては、前回同様、原油高・食品価格上昇、管理価格や間接税の引き上げ、予想を上回る賃金の上昇と競争が低い分野での価格転嫁を挙げた。
(4) マネーと信用の高い伸びが、「中長期的な物価上振れリスク」という判断も維持された。流動性指標が金融混乱後も高い伸びが続いているが、その要因としては、「イールド・カーブのフラット化や金融市場の混乱、銀行グループ内での再編に関わる取引拡大などの一時的要因で過大評価になっている可能性がある」が、「基調も引き続き強い」とした。また、金融市場が不安定な局面でのマネー分析の重要性についても改めて強調された。
総じて言えば、前回理事会からの間に、7~9月期の高めの成長、企業サーベイ調査の一部下げ止まり、失業率の低下といった強い指標の反面、10月の小売統計の前月比マイナス0.7%という大幅な減少、消費者信頼感指数の連続的な悪化、「内需主導の自律的な成長持続」というシナリオの陰りを示唆する材料も出てきた。トリシェ総裁コメントの中で、「中期見通しは良好」という文言が外されたのは、この辺りに理由があるのではないかと推察される。
消費者信頼感指数は、全体ではマイルドな悪化に留まっているが、ドイツがプラス3で長期平均(マイナス10)を大きく上回る中、イタリア(マイナス22)、アイルランド(マイナス18)、スペイン(マイナス17)は長期平均のマイナス14、マイナス4、マイナス11を下回るなど、国ごとのバラツキが広がっている。
質疑応答では、今回の理事会の決定は、従来、建前としてきた「全会一致」ではなく、見解の相違があったことを認めたが、金融混乱や原油高、ユーロ高といったショックの影響と対応力が13カ国の中でも異なる中では、全会一致を貫けないのは言わば当然であろう。
金融混乱の長期化で、景気に対する楽観的な見方を後退させる一方、足もとの物価の上振れは原油・食品価格の直接的な影響による一時的なものであると位置づけて、質疑応答も含めて、インフレ期待の上振れや、賃金、価格転嫁を通じた二次的影響を再三にわたり牽制した点が、今回の記者会見の最大の特徴である。

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経済研究部   上席研究員

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州経済

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