コラム
2007年11月22日

企業が育てる「地域力」-『幸せの黄色いレシート』

土堤内 昭雄

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少子高齢化が進展した本格的な人口減少時代において、持続可能な活力ある社会を築き、われわれが安心して暮らすためには「地域力」の向上が求められる。「地域力」とは地域の問題・課題を住民が主体となって解決し、日々の暮らしをより良くする力、いわゆる“ご近所の底力”である。

このような「地域力」を醸成するためには、住民同士の「交流・信頼・社会参加」によるネットワークの形成が必要だ。この目に見えない社会の人的ネットワークの構築が、ソーシャル・キャピタル(人間関係資本)であり、その蓄積が市民活動を活発にする。ソーシャル・キャピタルの蓄積した社会は、社会問題の発生やその解決コストを抑え、無駄の少ない低コスト社会を実現する。そしてその醸成には地域住民のみならず企業の果たす役割も大きいと考えられる。

みなさんは『幸せの黄色いレシート』をご存知だろうか? これはある大手小売業が行っている地域のボランティア団体などを支援するキャンペーンだ。毎月、特定日にスーパーマーケットでお客が受け取る黄色いレシート(通常は白色)を、自らが応援したい団体のボックスに入れると、投函レシートの合計金額の1%相当分を当該団体が希望する商品に換えて地元店舗が寄贈するものだ。

このキャンペーンでは、応募団体が一定の基準を満たすと地元店舗に透明の投函箱が設置される。申請は店舗ごとに受け付けるために、選ばれる団体の活動内容などは地域のニーズや課題を反映することになる。登録団体の活動分野は、福祉、環境、街づくり、文化、子どもの健康・安全など多岐にわたる。一方、黄色いレシートを投函するお客は、自分の意思で支援団体を選ぶことができ、その投票行動から地域住民の意向も分かる。

2002年に始まったこの活動は、企業が媒体となって、市民団体による住民支援と住民による市民団体支援という互酬の関係を生み出している。そして全国一律の支援ではなく、地域ごとに地域性を反映したその地域固有の互助・共助の仕組みを作り出す。「良き企業市民」としての企業の地域貢献は、CSR経営の観点からも非常に重要だ。それは地域に互助・共助の仕組みをビルトインした社会づくりを促進し、これからの「地域力」の向上に大きく寄与すると思われる。
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