コラム
2007年11月21日

組織学習の視点から食品偽装事件の背景を考える

  小本 恵照

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1.頻発する食品偽装

今年に入り食品偽装事件が頻発している。不二家の期限切れ商品の販売を皮切りに、石屋製菓の「白い恋人」、ミートホープの牛肉偽装、比内地鶏の偽装、伊勢の赤福の製造日・消費期限不正表示、船場吉兆の消費期限不正表示や但馬牛偽装など、次々と様々な偽装が明るみに出ている。

こうした企業の行動に対する論評として、利益を追求しすぎた結果というものが多い。例えば、2007年11月17日付けの産経新聞の社説は、船場吉兆を初めとする不正に対して次のように述べている。

「ブランド品を売り物にしている食品が多く、『少しぐらいごまかしても、消費者は買ってくれる』という甘い考えが、経営者に共通している。また、儲け至上主義が、不正に走る動機にもなっている。」

もちろん、結果としては利益を増やすために偽装に至ったことは間違いないが、なぜ偽装という違法行為を犯してまで利益を得ようとしたのかという本質を論じていない点に読者としては少々物足りなさを感じる。

2.食品偽装を生み出した組織学習における「有能性の罠」

食品偽装のより深い理由を考える上で重要なのは、事件を起こした「白い恋人」「赤福」「船場吉兆」などの会社がブランド力もあり十分な利益を挙げているという点にあると思われる。いかなる理由があろうと偽装が断じて許される行為ではないことは言うまでもないが、赤字の会社が倒産を回避するために偽装によって利益を得るというのは論理としては納得感がある。しかし、現実に事件を起こしている会社には財務的余裕があり、偽装というリスクを犯してまでも利益を増やそうとしたことは不可解だと感じる方々も多いのではないだろうか。

その疑問に対する一つの解答として、企業の組織学習に注目したい。食品偽装を起こした会社がブランドを確立し利益を挙げているのは、永年の組織学習によって他の会社にない組織能力を高めてきたことによる。コスト管理を初めとし、販売、製品開発、人材育成など企業経営の様々な面において他社に優る能力を蓄積したからこそ、現在の地位を築いたのである。逆説的だが、こうした優れた経営能力が食品偽装の原因になったのではないだろうか。

組織学習論で明らかになった点に、「ある方向の組織学習を続けることはその方面の組織能力を向上させることにつながるが、その高まった能力は同一方向の組織学習を一段と強化させる」という自己強化機能の存在がある。別のより優れた学習方法が新たに出現しても、自己強化機能は現在の学習を続行させる。それは、結果的には企業全体として見た場合の組織能力を低下させてしまう。これは、「有能性の罠(competency trap)」と呼ばれる。

食品偽装の目的はコスト削減である。事件を起こした会社では以前から厳しいコスト管理が行われてきたものと推測される。コスト管理の徹底は会社の成長に寄与してきたのだろう。しかし、賞味期限や原産地に対する消費者の関心が高まる中では、品質管理を徹底した上でのコスト管理が求められている。事件を起こした会社は、消費者の関心の変化に対応したコスト管理を進めることができず、コストを削減することのみに重点を置いた組織学習を続けてきたのではないだろうか。これは、コスト削減のみを徹底して追及するという組織学習の「有能性の罠」に陥り、挙句の果てに偽装にまで至ってしまったと考えられるのである。

有能性の罠を回避するためには、多方面に眼を配り、バランスのとれた組織学習を心がけなくてはならない。一連の食品偽装事件は、バランス感覚を欠いた経営者が極端な方向への組織学習を進めたことが招いた悲劇と考えられる。

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