コラム
2007年11月16日

混合診療 ― 議論を“蒸し返す”本当の目的は

  阿部 崇

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久しぶりに「混合診療」という単語が一般紙面に登場した。11月7日に東京地裁が混合診療を原則禁止とする現行の公的医療保険制度を違法とする判断をしたことを受けて、規制改革会議が混合診療の解禁を改めて答申に盛り込むことを公表したためだ。

わが国の医療保険制度は、原則として全ての医療行為に公的保険が適用される「保険診療の原則」の下で運営されている。しかし、高度な先進医療や国内未承認の薬剤などの一部の医療には保険が適用されない場合がある。一連の治療の中で、保険が適用されない医療が行われた場合、つまり、保険診療の医療と保険適用外の医療が“混合”したとき、同原則の下では、本来ならば保険が適用され3割の自己負担で足りる部分を含めて“根っこから全額自己負担”になる仕組みとなっている。これが「混合診療の禁止」である。

先の東京地裁判決は、原告には保険診療の医療については(保険適用外の医療があっても)給付を受ける権利がある、として混合診療を禁止する現行制度を違法と判断した。確かに、現実の民事裁判におけるこの判断は尊重されるべきものであろう。しかし、それを受けて、僅か3年前、時の厚生労働大臣と規制改革担当大臣の間で基本的合意がなされた混合診療問題への対応(全面解禁の見送り)について、政府直下の規制改革会議が、当然のように議論を“蒸し返す”ことは果たして妥当なのであろうか。

規制改革会議は、混合診療こそが患者の選択肢を広げ、医療技術を高度化させる、として解禁を肯定する。しかし、そもそも混合診療の解禁は、根っこから全額自己負担になる場合に本来の保険適用部分を給付していこう、というものである。少子高齢化の中にあっても、骨太方針2006の名の下に社会保障費を毎年2,200億円削減することが求められている今、保険給付を拡大させる方向での議論が再燃することに違和感を覚える。

目的は何か。  ―  混合診療の解禁は、これまで“根っこからの全額自己負担”というハードルによって妨げられてきた患者の選択、医療技術の進展に、一時的に刺激を与えるであろう。しかし、その表裏として「保険診療の原則」というルールを消滅させるきっかけとなることも忘れてはならない。すなわち、混合診療の全面解禁は、これまで当然に保険が適用された医療を、保険財政事情を理由に保険適用外の医療として全額自己負担とすることも可能とする原則の転換なのである。“蒸し返し”の本当の目的は、将来的な保険適用範囲の調節弁の導入にあるのではないだろうか。

保険診療の範囲が“今のまま”という前提で安易に混合診療の解禁の議論をするのは危険である。医療保険制度の原則とは何か、原則の転換は何をもたらすのか、メリットとデメリットはどちらが大きいのか、正しい判断が求められる。

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