コラム
2007年11月05日

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ワークライフバランスという言葉が社会に浸透してきている。インターネットはもとより、テレビや新聞・雑誌にこの言葉が出現する頻度も高まってきたが、その中身を見ると、「働く女性の子育て支援」の色彩がやや強いように見える。これは、ワークライフバランスが、最近の少子化傾向のなかで、それを改善するための方策として期待されていることもあり、子育て支援色が強まるのは自然の成り行きかもしれない。

本来的には、ワークライフバランスは、仕事を持つ人が、仕事と家庭あるいは、仕事と社会といった複数の要素をいかに上手くバランスさせるかというものである。すなわち、ワークライフバランスは仕事を持っている限り、人生のあらゆる局面について回るものである。

そのため、ワークライフバランスのあり方は、自分が人生のどの局面にいるかで変わってくる。もちろん、人により、バランスについての関心領域も求める均衡点も大きく異なるものである。

とはいえ、過度の単純化を恐れず言えば、30歳代・40歳代のワークライフバランスは「ワーク育児バランス」、50歳代後半になると「ワーク介護バランス」、リタイア後は「ワーク社会バランス」といったように、典型的なパターンが浮かび上がってこよう。これを見ると、ワークライフバランスには、人生のライフサイクルの推移に連動した形での最適化が求められていることに気が付く。

他方、個人の生涯を通じてのライフデザインを考える場合、ライフサイクルの各局面をどのように設計するかという発想が必要であるが、このことは、人生の各局面でワークライフバランスをどうするかということと密接に関連する。

したがって、多様なライフデザインを描こうと思えば、ワークライフバランスに関しての自由度が予め確保されていることが必要である。そして、この自由度の確保は、どの程度までワークライフバランスを支援する環境が整備されているかという点に依存してくる。ワークライフバランス環境が整備された状況とは仕事と家庭、あるいは仕事と社会といった間でバランスを取ろうとする際に多様な選択肢が用意されている状況を意味する。

バランス感は個人の価値観やライフサイクル上の位置により異なる。例えば、ある時期仕事一辺倒の生活をしていても、特段、家庭や社会との間に不都合が生じないのであれば、バランスが取れている状態にあると言えよう。このとき、前述の多様な選択肢には出番がない。ただ、ライフサイクルが進み、ある時、育児や介護にウエイトを置こうとしたときに、ニーズに合わせて仕事と育児、仕事と介護のバランスが実現できることを示すという役回りが多様な選択肢にはある。

もちろん、これらの選択肢は、メニューに記載してあるだけでなく、それを実際に選択しても職場で不利益を蒙るようなことのないような周辺整備ができていることが必要である。この部分までもが手当された状況をもって、ワークライフバランス環境が整備された状況ということになろう。ワークライフバランスとライフサイクルとの整合性は、必要なときに各選択肢を躊躇なく使える状況が担保されていてこそ実現される。
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常務取締役理事

神座 保彦 (じんざ やすひこ)

研究・専門分野
ソーシャルベンチャー、ソーシャルアントレプレナー

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