コラム
2007年10月29日

適切な政策に必要な統計の整備

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.統計法の全面改正

我が国の公的統計制度のあり方を定めた統計法が、60年ぶりに全面的に改正された。この影響は多岐にわたるが、注目すべきことは我が国の公的統計整備の「司令塔」役を担う組織として、統計委員会が発足したことである。
   日本では行政機関がそれぞれの政策を遂行するために必要な統計を作成してきた。こうした歴史的な経緯もあって、日本の統計制度は分散型のシステムとなっている。省庁縦割りの予算制度のもとで、個々の行政需要に応じた統計が作成されてきたために、日本の経済・社会全体として必要な統計が体系的に整備できていない。   景気判断の材料として注目を集めるGDP統計に対しては、最初に発表される一次速報からその後の改定で大幅な変更が行われるなどの精度の問題や発表時期、情報量など様々な問題点が指摘されてきた。実はこれはGDPの推計方法だけではなく、推計の材料になっている基礎統計にも大きな問題があったのである。数多くの統計を利用して作成される国民経済計算には、わが国の統計制度が分散型であることの弊害が集約的に現われていた。

2.注目浴びる消費者物価指数

最近では消費者物価指数が、金融市場やマスコミの大きな注目を浴びるようになっている。量的金融緩和政策の導入では日本銀行の金融政策に、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の前年比の動きが直結することになった。また物価連動債が登場したことによって、消費者物価の上昇率が直接金融市場に影響を与えるようになった。消費者物価指数の基準改定や、携帯電話料金の変更がどのように指数の計算に織り込まれるのかという一見些細に見えることで、最近の金融市場は大きく揺れてきた。説明や情報の不足もあって、金融市場関係者からは不満の声も漏れるようになっている。
   統計法の改正を機会に、内閣府経済社会総合研究所では、ESRI-経済政策フォーラム「統計改革・待ったなし~危機に瀕する日本の統計~」を開催したが、ここでも消費者物価指数について、信頼できないという声があるという指摘も聞こえた。こうした声には誤解にもとづく部分もあるが、これとてももっと丁寧な説明ができていれば避けられたものであろう。
   問題の背景には、統計に関わる人員と予算の不足がある。例えば同フォーラムに日本銀行の西村審議委員が提出した資料によれば、日本が消費者物価指数の作成に投入している資源を米国と比べると、人員では五分の一、予算では十分の一に過ぎないということだ。   
   年金でも医療でも、経済金融政策でも、政策を決定する際の基礎になっているのは、統計数値である。これが不正確では適切な政策を行うことはできない。もう少し判断材料となる統計に予算や人材を配置すべきではないかと思うが、残念ながらこうした地味な問題には、マスコミも政治も関心が薄い。

3.期待される統計委員会の機能

もっとも政府債務残高の名目GDP比が100%を超える財政状況では、統計情報の整備に向けられる予算や人員にも大きな制約がある。新しい統計の整備や統計の提供方法の改善などサービスの拡充のためには、当然、既存の統計の調査・集計や提供サービスのスクラップ化が必要となってくる。こうした中で、どのような統計を新規に整備すべきか、必要な情報は何か、逆に何が比較的重要性が低いのかなど、統計の体系的な整備の重要性は大きい。
   全体として不足している人材と予算の中でも、例えば人員でみれば、4939人に過ぎない国の統計職員のうちで、実に3493人もが農林水産省にいるというように、日本の統計は分野別に見れば大きなアンバランスも抱えている。統計委員会にこれを変更する強い権限が与えられているわけではないが、公的統計整備の「司令塔」としてあるべき姿を示すことによって、日本の統計の改善が進むことを期待したい。

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経済研究部   専務理事

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

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