2007年09月26日

現下の保険計理上の諸課題について -保険負債の時価評価問題について-

  猪ノ口 勝徳

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1.
経済価値ベースでの保険会社のソルベンシー評価や保険負債の経済価値評価、すなわち責任準備金の時価評価を巡る検討の動きが見られるようになってきた。具体的には、本年の4月に金融庁が「ソルベンシー・マージン比率の算出基準等について」を公表した。そこでは、保険会社のソルベンシー評価は経済価値ベースの評価に向かうべきであると提言されている。また、海外では、本年の5月に、IASB(国際会計基準審議会)が保険会計に関するディスカッション・ペーパーを公表したが、保険負債について、評価時点における実際死亡率や市中金利等に基づく現在価値ベースによる評価を行うことが提案されている。さらに、IAIS(保険監督者国際機構)では、経済価値ベースのソルベンシー評価の検討が続けられており、特に欧州では、2012 年からの経済価値ベースによるソルベンシー評価の導入が検討されている。
2.
また、日本に特有の事情として、逆ざや問題の存在がある。日銀のゼロ金利政策は終了したものの、依然として低金利状況にある中で、保険会社のソルベンシーを正確に評価するためには、責任準備金の時価評価を行うことが1つの方法として考えられる。責任準備金の時価評価は、不確定な将来事象を対象とするため測定の信頼性の問題がつきまとうが、保険会社のソルベンシーを評価する局面においては、さまざまなシナリオに基づくシミュレーションを行い、保険会社の財務状況をモニタリングすることも考えられる。
3.
将来の見通しが保険会社にとって好ましいものではないときには、契約者保護の観点から、時価会計の考え方に従い、健全な責任準備金を積み立てることが適切である。しかし、会計情報として考えた場合、時価評価された責任準備金には、さまざまな課題、論点がある。その代表的なものは、保険契約締結時の利益計上を認めるのかどうか、すなわち、現行の標準責任準備金を下回る金額になることを認めるのかどうかという論点である。この点に関しては、保険契約が売買される活発な市場が存在しないこと、保険契約が決済されるのは保険会社と保険契約者との間での取引であることを考えると、責任準備金の評価にはデポジット・フロアーを設定し、標準責任準備金額を下回らない金額とすることが必要であろうと思われる。また、適切なALM管理が行われている場合には、責任準備金に対応する資産の評価に関して、ヘッジ効果を表現できる会計処理が導入されることが望ましい。
4.
責任準備金の時価評価に伴う評価差額の会計処理についても検討が必要である。投資家が関心を持つと言われる損益情報について、投資家の誤解を招かないようにするためには、期待の変化に基づくウインドフォールを除外した適正な利益計算が行われることが必要である。この点に関しては、その他有価証券の評価差額の会計処理や、固定資産の減損会計の会計処理が参考になるものと思われる。
5.
以上の考え方は現行の標準責任準備金制度の考え方と矛盾しない。現在のところ、保険業法施行規則第69条第5項の「第1項、第2項及び第4項の規定により積み立てられた責任準備金では、将来の債務の履行に支障を来すおそれがあると認められる場合には、法第4条第2項第4号に掲げる書類を変更することにより、追加して保険料積立金を積み立てなければならない」との規定を受けた具体的な会計ルールは存在しないが、この点について、時価会計の考え方や手法を用いて具体的なルールを作り上げることで、問題は解決されるものと思われる。すなわち、保険計理上の現下の課題は、現行の標準責任準備金制度をベースにして、それを発展、改良させていくことで解決されるものであると考える。

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