コラム
2007年09月25日

原則主義に基づく監督にシフトする英国保険業界

小松原 章

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英国保険業界は2000年に成立した金融サービス市場法に基づき銀行、証券業等とともに一元的に金融サービス機構(FSA)の監督を受けている。同法により広範な規則制定権を付与されたFSAは、規制目的である市場の信認、消費者保護等を確保するため詳細かつ膨大な規則(FSAハンドブック)を定め、これら具体的なルールに基づき継続的な監督を実施している。

しかしながら、FSAはここに来て、現在のような厳格な規則に基づいた監督方式を原則に基づいた規制(いわゆるPrinciple-based regulation)にシフトし、これを今後の監督の基本スタンスにしようとの動きに転じている。こうした方向シフトの理由としてFSAでは、過去の経験から判断する限り、規則を強化するだけでは不適切販売等の不祥事を抑止しえなかったばかりか、監督、業界双方に対してコスト負担を増大させてきたとの見解が指摘されている。これに加えて、激変する金融市場の下で持続的な商品・サービスの革新を実現し、これを速やかに消費者の利便に供していくに際して、厳格な規則適用による監督が商品・サービス革新の進展を妨げる恐れがあり、さらに規制そのものが市場の変化に遅行し消費者保護を達成しえないという懸念も指摘されている。

そこで、FSAが志向する原則主義による監督とはいかなるものかであるが、大雑把にみると監督を実施していくに際し、大枠を定める基本原則(例えば、FSAハンドブック上の(1)会社の誠実義務原則、(2)顧客の公正取扱原則、(3)顧客への適合性原則等11原則)を重視し、従来のような具体的かつ詳細な規則は最小限度に絞り込むという方式である。要するに、このような方式の下では、監督当局は会社の事業活動にかかわる大幅な裁量権を経営陣に付与する一方、事業活動の結果が基本原則に照らして適切であるかどうかをケースバイケースで判断し所要の対応をしていくこととなる。

すなわち、経営陣は事業活動の自由度がいっそう高まり、商品・サービス革新が実現しやすくなる反面、自らの事業活動が規制目的に合致するかどうかを常に説明できる状況にしておかなければならないことになる。従来のように当局の定めた規則を遵守しておれば免責になるというプロセス重視から事業活動の成果に対して責を問われる結果重視の経営がいっそう求められる時代に突入したものと考えられる。FSAによる今後の具体的運営が注目される。
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