コラム
2007年07月30日

「男介の世代」

常務取締役理事 神座 保彦

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中高年男性の間で、「男介の世代」という笑えない駄洒落が流行っている。もちろん「団塊の世代」をもじった言葉であり、最近ではインターネットでの検索でも多数ヒットするところにまで来ている。

その意味は、もちろん介護を行う中高年男性である。その嚆矢は、「亭主の代わりはないけれど、市長の代わりはある」の名言を吐いて妻の介護のために辞任した江村利雄元高槻市長や、同じく、妻の介護を理由にポストを退いた西垣覚元東海銀行会長といわれる。介護の対象を妻に限らず、老親等に広げてみれば、同様の例は身の回りに増えているはずである。

平均余命は確かに長期化しているが、健康なまま寿命を全うできるわけではないのが現実であるなかで、団塊の世代は否応なく介護の現場に押し出されつつある。自らの年齢を考えれば、まさに「老老介護」の当事者と言うことになる。

団塊の世代はまさに会社人間として高度経済成長の時代を駆け抜けてきた世代、それを錦の御旗とし、家事については当然のように「妻任せ」にしてきたものの、足許の10数年はバブル崩壊後のリストラに遭遇し家計へのマイナスの影響を免れえず、連れて家庭内での風向きもやや逆風気味のなかで定年を迎えることとなったという人も多いはずである。常識レベルのスキルもノウハウもないままに家事の現場に押し出され、さらに、家事に習熟する間もないままに介護問題にも直面したケースも出てこよう。

また、当然に親の介護の当事者となってくれるであろうことを期待していた妻が実家の親の介護に動員され、夫の親の介護にまで手が回らない例も、特に一人っ子や長男・長女夫婦の家庭で起きていると聞く。こうなると、「男介の世代」の出番は否応なくやってくる。

本来、定年期の中高年世代は生活のステージをそれまでの職場から家庭あるいは地域コミュニティーへと切り替えるプロセスにあり、人生の黄金期を過ごす世代のはずである。これを反映し、「定年後は、家事を手伝い、地域コミュニティーにも参加してささやかな社会貢献の満足を味わい、新たな習い事に挑戦し、妻との海外旅行にも行きたい」という辺りが、団塊の世代に対する定年後の生活アンケートに対する定番の回答となっている。しかし、これが「男介の世代」になると、この定番回答の世界とは無縁の実生活が待っている。介護は当初こそ決意と意欲を持って取り組んでも、その意欲を維持し続けるのは難しい。ビジネスでは百戦錬磨の闘士であった団塊の世代も、「男介の世代」にシフトした途端に勝手の違いを痛感させられることも多かろう。我々は「男介の世代」の支援プログラムを本気で考える時に直面している。
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常務取締役理事

神座 保彦 (じんざ やすひこ)

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