コラム
2007年07月23日

はじめにありき高齢者世帯にとっての公的年金

経済研究部 主任研究員   石川 達哉

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  一世帯当たり消費の動向を世帯主の年齢階層別に見ると、過去10年あまりの間、現役の世帯よりも引退した高齢者世帯の方が堅調である。消費への影響力が大きい所得に関しては、企業収益の改善とは裏腹の関係で雇用者の賃金が抑制されてきたが、高齢者世帯においても公的年金受給額が減額するなど、所得自体は減少している。そうしたなかで、特に、夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦世帯では、消費はむしろ増えている。

図1

  注目されるのは、この高齢者夫婦世帯において、有業者のいない世帯(夫婦ともに無業の世帯)の割合が大きく上昇していることである。有業者のいない世帯の傾向としては、所得の水準に比して消費の水準は低くないことと、過去と比べて消費が増加していることが挙げられ、有業者のいない世帯の割合が高まれば、それらの傾向は高齢者夫婦世帯全体の平均値に一層反映されやすくなる。もっとも、有業者のいない世帯の消費水準自体は有業者のいる世帯よりも低いから、前述の傾向は高齢者夫婦世帯全体の消費の平均値が上昇したことの理由としては不十分である。とはいえ、有業者のいる夫婦世帯では、94年から99年にかけては所得と消費が両方減り、99年から2004年にかけては所得と消費が両方増えているから、有業者のいない世帯において、99年から2004年にかけて所得が減る中で消費が増えた事実と、そうした有業者のいない世帯の数が増えた事実には、少々驚かされる。

  これらの事実を以て、高齢者の所得環境は悪化したが、消費の方は増えたという単純な総括の仕方で、果たしてよいのだろうか。その答を探るうえで重要な鍵となるのが、実は、有業者のいる世帯も含めて高齢者世帯の重要な所得の源泉となっている公的年金給付である。正確には、公的年金給付水準の分布状況に注意を払わなければならない。
  まず、夫婦合わせた公的年金受給額が120万円未満の世帯の割合は、小幅ではあるが、94年11.0%、99年9.7%、2004年8.9%と低下を続けている。同様に、公的年金受給額が520万円以上の世帯も、94年5.7%、99年5.6%、2004年4.4%と低下を続けている。給付水準の世帯間格差は縮小傾向にあり、平均的な給付水準が下がったことは所得環境の悪化を示すものかもしれないが、きわめて低水準の公的年金受給額しか得られない世帯が減ったことは改善と言えるであろう。


図2

  しかも、高齢者夫婦世帯における有業者の有無は、この公的年金受給額と極めて密接な関係がある。年金受給額が低い世帯ほど世帯の平均有業人員が多くなる傾向、すなわち、就業確率が高まる傾向が見られ、この逆相関関係は特に給付水準の低い領域において顕著だからである。つまり、高齢者世帯の就業決定も、その結果としての勤労所得の水準も、公的年金の水準に依存しており、公的年金の最低水準が上がれば、平均水準が少々下がっても、就業確率は全体的に下がる公算が高いのである。

  この構造は、公的年金である程度の消費水準が確保できれば、総所得が下がっても、敢えて働くことはせずに、自由な時間を楽しむという高齢者世帯の選択を反映したものである。有業者のいる世帯と有業者のいない世帯のどちらに属するかは、極論すれば、公的年金の水準に依存して決まる結果であるから、両者を最初から別個の世帯と考えて比較してはならないであろう。
  例えば、公的年金受給額400万円・就業者なし・賃金ゼロという世帯と、公的年金受給額200万円・就業者あり・賃金200万円という世帯があるときに、「公的年金の所得再分配効果によって、当初所得ゼロの世帯と当初所得200万円の世帯のいずれもが、再分配所得は400万円となった」と言ったのでは、むしろ因果関係を逆に読んだことになってしまう。また、この例では、余暇を楽しむという側面を考えれば、前者の世帯の状況の方が好ましいことは明らかであろう。
  このように、合理的な選択をする高齢者世帯にとっては、公的年金は所得のひとつという程度の存在などではなく、はじめに公的年金ありきと言ってもよいほど重要な存在ではないだろうか。




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経済研究部   主任研究員

石川 達哉 (いしかわ たつや)

研究・専門分野
財政・税制、家計貯蓄・住宅

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