コラム
2007年07月23日

「子供の頭が良くなる家」と新金融街構想

  松村 徹

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「子供の頭が良くなる住宅」が注目されているという。首都圏の有名私立中学に合格した子供のいる200世帯では、リビングルームを中心に勉強も生活も営まれ、親子関係が密になる部屋の使い方をしていた、という調査結果を基に提案されたマンションや戸建て住宅のプランだ。

しかし、そこで提案されている「広いリビングルームと、ドアや壁で仕切られていない開放的なつくりの子供部屋のある間取り」の家に住み替えたり、建替えたりすれば、子供の頭がよくなるのなら誰も苦労はしないはずだ。いったい、間取りと子供の学力にどのような因果関係があるのだろうか。

まだ小学生くらいの子どもが、たとえ自分の部屋があっても、リビングルームを中心に勉強や生活をするのは、その場所が居心地良いからではないのか。要するに、親子関係がうまくいっている証拠で、ストレスがない暖かい家庭の雰囲気が、子供の生活・学習意欲全般に良い影響を与えているのが事の本質のように思える。親子のコミュニケーションが悪いのは間取りのせいではないはずだ。親子や夫婦の心の壁こそ問題だろう。そもそも、有名私立中学に合格することが子供の本当の幸せなのかどうかを、頭の良い親なら自問自答して欲しい。

そういえば、10年以上前の建築専門誌に「(子供が)キレない住宅」という特集があったことを思い出した。また、最近では、団塊世代夫婦の心の距離感を、空間の距離や仕切りに取り入れた、みもふたもない住宅プランすらある。形から入らざるをえないのは、建設・不動産業界の宿命かもしれない。

このように、本質を考えずに安易に形から入る、という意味では、東京をロンドンのような金融街にするため大規模な都市開発を行うべし、という先般の金融庁の構想も似たようなものではないだろうか。人口減少で経済力低下が懸念される日本において、金融立国は重要な国家戦略のひとつであるのは間違いないが、まず金融街ありきではないはずだ。国際金融分野のさまざまなビジネス機会という中身があって初めてビルや住宅が必要となるのであり、その逆ではないからだ。

森ビルが行ったアジア主要都市で働く人の調査では、5~10年後のビジネスの中心都市として、上海が圧倒的に支持され、東京は香港とシンガポールに続く4位でしかない。また、いまや金融市場に組み込まれた不動産投資市場についてみても、世界的不動産サービス会社ジョーンズ・ラング・ラサールの2006年世界不動産透明度調査では、日本は56ヶ国中23位で、欧米諸国はもちろん、香港、シンガポール、マレーシアよりも市場の透明性が低い。これが、高層ビルや外国人向けサービスアパートメント(長期滞在型ホテル)などハコモノだけを評価した結果でないのは明白だ。

金融立国のために優先してやるべき課題はいくらでもあり、市場改革や専門人材の育成、税制見直しなど、どれも簡単ではないのも事実である。しかし、都心の地価高騰が懸念されるこの時期に、昔ながらのハコモノ供給政策から、というのでは情けない。また、今回の金融街構想でさざ波が立った感のある建設・不動産業界には、ぜひ、環境立国や観光立国という視点も織り込んだ未来志向の都心整備のあり方を逆提案して欲しいと思う。

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