コラム
2007年06月13日

介護保険制度は医療制度改革のシミュレーションか

  阿部 崇

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介護保険のサービス事業者である「株式会社コムスン」に関する報道が連日のように行われている。厳しい事業運営環境の下で、懸命にサービス提供を行っている多くの他の事業所の存在を考えれば、相応の行政処分・指導が行われることは已むを得ない。しかし、単なる基準違反事案に対する厳正処理で幕引きされることなく、この問題が介護保険制度の根本的な建て直しに向けた議論の契機となることが望まれる。

介護保険制度は、年金、医療、労災、雇用に続く、おそらく最後となるであろう国内5番目の社会保険制度として2000年4月にスタートした。これまで、社会福祉法人や自治体を中心に提供されていた介護サービスについて、一定の基準(要件)の下で“法人種類を問わずサービス供給主体になれる”ことも介護保険制度の大きな特徴であった。現在では、多くの民間営利法人が介護サービス事業者として介護保険に参入しサービスを提供している。
   このことは、「社会保険制度という公的側面の強い“準市場”に、営利法人がサービス供給主体として参入すること」のシミュレーションでもあったとも思える。つまり、医療保険制度で恒常的に議論される株式会社による病院(医療機関)運営という課題について、その実現可能性の検証手段に介護保険制度が使われていたと考えられるのではないか。

翻れば、“介護の手間”を基準として給付水準を画する「要介護度」による利用者区分の考え方は、後に、“医療の必要度”や“身体機能(ADL)の状態”を基準として長期入院の入院料(診療報酬)を画する「患者区分」の導入の伏線であったといえる。同じく、平成17年10月に導入された介護保険施設入所者の居住費(個室代金・光熱水費)や食費の自己負担は、当たり前のように翌年10月に長期入院患者にも適用された事実がある。
   また、平成20年4月に創設される高齢者医療制度(満75歳以上を対象とした医療保険制度)の報酬では、介護保険制度で主流となっている「包括評価」(1ヶ月あたりの固定費用)が“横並び”で導入されることも十分に考えられる。
   ある時は“医療保険と介護保険の整合性を保つため”として、ある時は“医療と介護の性質的な差異を理由”として、医療保険制度改革が介護保険制度を舞台に試行されているかのようにも感じられる。

営利法人による医療サービス提供が医療保険制度において解禁されるか否かについて、今後の議論の推移を注視しなければならないが、今回のように介護保険制度で表面化した問題だけを取り上げ、医療保険制度に当てはめるような“シミュレーション的な手法”が採られないことを望む。

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