コラム
2007年06月11日

出生率回復で現役世代の負担は増加する

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1. 持ち直す出生率

6月6日に発表された2006年の人口動態統計概況によると、2006年の合計特殊出生率は1.32となり、2005年の1.26から持ち直した。
2004年に制度改正がおこなわれた、現在の年金財政収支計算の基礎となっているのは、2000年の国勢調査を基礎に2002年に作成された将来推計人口である。ここでは、合計特殊出生率を2004年は1.32、2005年は1.31と想定していたが、実際には2004年は1.29、2005年は1.26と想定を下回って推移していた。出生数の低迷が続けば年金財政を支える現役世代の人口が縮小し、年金財政が逼迫するので、公的年金制度の将来に対する懸念が出ていた。2006年12月に発表された最新の将来推計人口では、2006年の合計特殊出生率は1.29と仮定されていたが、実績はこれを上回った。
合計特殊出生率が上昇した要因としては、デフレ状況の改善など日本経済の回復も大きいだろう。失業などによって所得が大きく減少する恐れがあるという経済的な理由から、出産を控えていた人たちもいたはずである。失業率が2003年4月の5.5%のピークから大きく低下し、今年4月には3.8%にまで低下していることは、こうした不安を和らげて出生率の上昇に寄与した可能性が高い。もちろん、政府や企業による少子化対策が、成果を挙げつつあることも要因であろう。
しかし、このまま出生率の上昇が続くと考えるのは、楽観的にすぎる。少子化対策の一層の充実なしでも出生率の上昇が続くことを期待すると、糠(ぬか)喜びに終わる恐れが大きい。

2. 出生率上昇で負担は増加する

もうひとつ、糠(ぬか)喜びとなる恐れがあるは、出生率の上昇がそのまま負担の縮小につながるという期待についてである。出生率の低下が公的年金財政の逼迫をまねき、年金保険料の引き上げ幅を拡大させるならば、出生率が上昇すれば負担が低下すると思うだろうが、実はこうした人々の理解とは逆に、出生率が高まればそれだけ負担は高まるのである。
現役の勤労世代は、年金・医療・介護など高齢者のための負担をおこなう必要があるだけではなく、若年者の保育や教育などの負担もする必要がある。現役世代の負担を表す代表的な人口指標は、0~14歳までの若年者と65歳以上の高齢者を合わせた従属人口を、15歳から64歳までの生産年齢人口で割った従属人口指数だ。
先の2006年の将来推計人口には、将来の出生率が標準的ケースである中位推計の他にも、標準よりも高い場合の高位推計と、低い場合の低位推計もある。この3つのどのケースでも従属人口指数は少子化のために上昇して行くが、グラフの最後のあたりの2055年頃を見れば、従属人口指数は出生率の高いケースは一番下にあって扶養負担が最も軽く、出生率が低いケースは一番上で扶養負担が最も重い。
しかし今後40年くらいの期間は、逆に出生率が高いケースの方が低いケースよりも上にあって、出生率の高い方がむしろ扶養負担が重くなる。明日、急に日本の出生率が上昇して子供がたくさん生まれても、この子らが大人になって働きはじめるまでには約20年の年月が必要で、この間、働く世代は高齢者と子供の両方を扶養しなくてはならない。出生率上昇の効果が現れて、働く世代の負担が低下するまでには、実は非常に長い期間が必要で、それまでの間はむしろ逆に負担が高まってしまうのである。

3. 状況が改善するのは先の話

年金などの社会保障負担の増加の根源にある人口減少を止めるには、出生率を引き上げる必要がある。しかし、高齢化による現役世代の負担を軽減しようとして出生率の引き上げに成功すると、かなりの期間にわたって逆に働く世代の負担は高まってしまう。そもそも出生率を引き上げるために少子化対策をさらに充実させる必要があり、そのための支出の増加も必要だ。
もちろんこのまま放置すれば、永久に少子化問題は解決せず、状況は悪化の一途をたどるだけである。問題の根本的な解決のためには出生率を引き上げるしかなく、そのための負担増に国民の理解を得る必要がある。政策の効果や効能は誰しもが雄弁に語るが、その裏にある負担増については誰も触れたがらない。しかし、少子化対策は長期的には負担の軽減になるが、短期的には決してうまい話だけではないということに十分理解を得た上でことを進めなければ、失望から結局政策の推進に対する理解も失ってしまう危険性があるのではないか。

出生率

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経済研究部   専務理事

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マクロ経済・経済政策

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