コラム
2007年06月08日

”看板の架け替え”で終わらないために-「療養病床の再編」を考える

  阿部 崇

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医療制度改革の一環で行われることが決まった長期療養のための入院ベッドの削減策、いわゆる「療養病床の再編」(「療養病床の再編が担う社会的入院の解消」基礎研Report,2007.1)であるが、予想通り現場に混乱が起き始めている。

療養病床の再編とは、端的に言えば、現在38万人分(医療保険給付25万床、介護保険給付13万床)ある療養病床を15万人分まで減らすという施策である。

入院医療費を削減する方法は2つあり、1つは「入院日数を短縮すること」、もう1つは「ベッド数を削減すること」である。即効性・確実性があるのは後者であり、ベッド数削減を主たる内容とする「療養病床の再編」はまさに入院医療費削減の切り札であった。

医療費削減の大合唱の中、入院患者の約半数に“医療の必要なし”との調査結果(中医協調査、H17)がでた療養病床の削減は必然の施策であろう。しかし、問題はその議論の“もって行き方”にあったと考える。

医療制度改革の議論は、高齢者医療制度、生活習慣病対策などを中心に進められたが、「療養病床の再編」は、議論もほぼ終盤に差し掛かった平成17年12月、改正法案の国会提出まで残り2ヶ月というタイミングで突然説明されたのである。この時期は、翌年4月の診療報酬・介護報酬改定の大詰めの時期でもあり、当然に深い議論が行われることなく、平成23年度末までに医療保険給付病床の10万床削減、介護保険給付病床の全廃が、まさに“あっという間”に決まったのである。

さて、削減ベッドに入院している23万人の行き先はどこか。厚労省資料では、“介護老人保健施設”“有料老人ホーム・ケアハウス”“在宅”で吸収するとされるが、どこまで実現できるかは全くの不透明である。厚労省は、その方法論として、医療機関が削減するベッドを介護老人保健施設や有料老人ホームに切換えることを1つの柱としている。しかし、医師等の配置基準も1病床あたりの床面積などの設備基準も違う施設への切換えは、改正法成立から1年を経た現在もいっこうに進んでいない。

この状況を受け、早くも厚労省は介護老人保健施設への切換えについて大幅な要件緩和を行っているが、果たしてそれらの措置は正しいのだろうか。人員基準も設備基準もほぼ元のままの“療養病床”を介護老人保健施設と呼べば済むのか。療養病床の数を見かけ上減少して、医療費だけが削減されればよいのか。

「行き先のない」入院患者を出さず、介護費への付け替えではなく医療費をきちんと削減すること、この難題に向き合い真摯に取り組まなければならない。郵政民営化、社会保険庁改革の後、“看板を架け替えるだけ”の改革に、もう国民は騙されないだろう。

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