コラム
2007年06月07日

社会保障制度の構造的な見直しを今-コムスンへの行政処分が示唆するもの-

阿部 崇

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訪問介護事業所のコムスンに対して“厳しい”行政処分が行われた。新規の事業所指定(開設)および既存の事業所に対しても更新指定(6年に1回)を認めないというものである。この行政処分によって、コムスンが全国で展開している事業所の数が向こう5年間で約8分の1に縮小するとの報道もある。

介護サービス事業者は、社会保険の供給主体として準市場で事業展開し、享受する一定のメリットがある以上、当然遵守すべきルール(人員要件や運営基準)がある。それを逸脱したのであるから、行政処分は甘受すべきことで、速やかなマーケット退場もやむを得ないと考える。

一方で、現在同事業所から訪問介護サービスを受けている利用者の不利益がクローズアップされるが、これについては、あまり心配は要らないように思う。もともと採算が取りにくい(=代わりを担う他の事業所が少ない)地域にはあまり展開されていないはずであるし、現場のヘルパーやケアマネジャーは利用者の不利益を最小限に抑えるよう、代替の事業所により手当てをしていくであろう。

問題は、不正請求や人員欠如が一事業所だけの特殊事情ではない可能性があるということである。程度の差はあれ、レギュレーション通りに展開しているだけでは事業継続さえ危うい水準に各サービス事業所が陥っている背景があるのではないか。

先週公表された「骨太の方針2007(素案)」では、一層の社会保障費の削減が謳われており、2009年4月の介護報酬改定に向けて、更なる単価カットの仕組みが検討される準備は整っている。

今回の問題は、近年の制度施策の方向性と現場の実情とのズレが最も悪い形で出てきたものと言えよう。医療保険制度も同様であるが、供給主体への過度な締め付けは、結果として利用者(患者や高齢者)の不利益となって顕在化する。ここで行うべきは、逸脱者の排除だけではなく、制度の構造的な問題に向き合い、解決の一歩を踏み出すことである。利用者の権利を守るためならば、利用者との接点を担う供給主体をきちんと守ることである。社会保障費削減を報酬引き下げという手法で行うことは限界に達している。

ここに来て、年金、介護の制度的な歪みが現れた。2004年から続いた年金、医療、介護の制度改革は、もう一回やり直す必要があるのではないだろうか。
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阿部 崇

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