コラム
2007年06月04日

デジタル化とグローバル化と格差社会

遅澤 秀一

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最近、格差拡大の理由としてグローバル化が挙げられることが多い。海外への雇用流出や価格競争による賃金低下が低所得層を増加させたというのである。しかし、昔から工業化、産業の高度化を志向する途上国は多かったのだから、これだけでは説明不十分で、ほかに近年のグローバル化を促進する何らかの要因が加わったはずである。

この急速なグローバル化の背景には、マイコンとNC工作機械の導入に始まるデジタル化がある。マイコンがアナログ技術者の、またNC工作機械が熟練工の代わりを果たしたのである。その後、コンピュータの普及に伴い、FA化とOA化が進み、さらにインターネットによる情報ネットワークによってグローバル化と結び付いた。つまり、現在の途上国が工業化を目指す際には、熟練労働者・技術者という人的資源の必要なアナログ的産業よりも、先進国から製造装置を導入すればすむハイテク産業の方が、参入障壁はむしろ低いくらいである。そのため、グローバル化のピッチも上がってきた。

デジタルの特徴は、結果を情報としてコピーすることが容易な点にある。アナログでは、外見からはノイズと意味のある情報とを区別しにくく、プロセスの再現なくして結果を復元できないのに対し、デジタル社会は「結果コピー」社会となる。生産(コピー)のコストは下がる一方、オリジナルを作る人とコピーする人とに二極化し、格差の拡大が必至なのである。

デジタル化された情報化社会における格差発生のメカニズムを考えれば、いかに格差を是正することが難しいかがわかるであろう。「再チャレンジ支援」では二極化を解決できない。むしろ、チャンスは与えたのだからと、結果の格差を正当化するのに使われる恐れすらあるだろう。パートタイマーや若年フリーターが正社員になれても、正社員の中でマネジメントや専門的な業務に携わる人間との間で格差が広がるだけである。また、アナログ社会のように経験によってプロセスに付加価値を付ける余地がない「結果コピー」社会では、年功賃金制の根拠は崩壊して、低賃金が固定化される可能性がある。

かといって、国か企業レベルかは別として、「分配是正」によって格差縮小を目指すのでは、オリジナルを作る人のモラルダウンや流出をもたらすだけだろう。結局のところ、経済効率性を唯一のものさしとして政策立案している限り、処方箋は書けない。エコロジーに配慮した地域コミュニティーの活性化を通して、社会の価値観を転換させていくことも必要になるであろう。
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