2007年05月21日

ファンドは地域社会に貢献できるか -期待される健全なオーナーシップの発揮-

松村 徹

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ファンドブームといわれる現在の不動産投資市場であるが、先のバブル期と大きく異なる点は、海外マネーの存在感の大きさである。これは、証券化で日本市場の透明性と流動性が高まったことに加えて、日本が相対的に魅力的な投資環境にあることが理由だ。もちろん、バブル崩壊のトラウマからようやく解放された国内投資家も、ファンドを経由して不動産事業に潤沢な資金を投入して、市場の活性化に一役買っている。

流動性に乏しく不透明極まりなかった日本の不動産投資市場に、金融の論理と技術、倫理・規範が持ち込まれて自由でオープンな市場が形成されたことは、投資家にとって喜ばしい限りだ。ただ、不動産事業で所有と経営の分離が進み、金融市場や為替の動きに敏感に反応する内外のファンドマネーが大きな影響力を持つに至った今こそ、健全なオーナーシップの必要性に言及しておきたい。

いうまでもなく、ビルや住宅などの不動産は、企業やファンドの所有であっても、いったん市場に出た後は、街を構成して都市機能の一部を担う公共性の高い財であり、長期間使用され続けて、その地域社会の盛衰と運命を共にせざるをえないものである。不動産事業における健全なオーナーシップとは、所有する不動産と地域に対するこだわりや愛着、責任感を背景に、地域から逃げ出さずに、事業を通じて地域社会と共存共栄していくという事業者の哲学や覚悟の有りようだと考える。

たとえば、ビルのオフィスゾーンがセキュリティシステムで固めた城砦であっても、手入れの行き届いた豊かな植栽とオープンカフェを低層部に持つだけで、街との親和性は全く異なるはずだ。街区全体の魅力を高めるため、ビルオーナーが景観配慮や街路整備、防災体制の充実を積極的に進める地域もある。ビル事業を営む伝統的な不動産会社なら、ある程度共有できる感覚だと思われるが、いまや不動産投資市場の主役となったファンドにこのようなオーナーシップを求めることは可能だろうか。

極端なことを言えば、私募ファンドの場合、追加投資を極力抑え、最低限の保守管理しかできないほど経常費用を削減し、賃料引き上げのためにテナントを無理やり入れ替えてキャッシュフローを大幅に改善させ、これを高値で転売できれば、運用利回りの多寡にしか興味がない投資家は大いに喜ぶだろう。しかも、彼らの多くは移り気で逃げ足が早く、高い利回りが期待できなくなれば、地域や国を越えてたちまち他のファンドや他の資産に移動してしまうのだ。そこには、地域社会への愛着どころか、不動産へのこだわりすらない。

一方、長期的な観点から資産価値の維持・向上を図るJ-REIT(不動産投資信託)では、地域社会への貢献を意識した運用者が現われている。たとえば、地元密着を重視する「ご当地ファンド」、再開発による街づくりを展開するスポンサーと一体化したファンド、財政難に苦しむ自治体から公共インフラの組み入れを目指すファンド、あるいはエネルギー効率の高い建物など地球環境に配慮した不動産投資を謳うファンドなどである。

昨今のファンドマネーの奔流が、アンチテーゼとして地域社会との共存を図る不動産オーナーシップの重要性を浮かび上がらせたともいえるが、ファンドマネーなくして不動産事業が成り立たないのも事実である。そこで、投資の器という制約の中でも、一定のオーナーシップを発揮できるファンド運用者と理解ある投資家の増加に期待したい。

(注)以上は、『不動産経済ファンドレビュー』2007年5月15日号のOpinion欄に掲載された文章に一部加筆したものです。

(ご参考)不動産投資レポートのバックナンバーは、弊社ホームページ「不動産投資研究」コーナーからすべてダウンロード可能です。 http://www.nli-rearch.co.jp/project2/real_estate_study/index.html

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松村 徹

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