2007年03月26日

QOL(人生の質)とパーソナリティに関する一考察 -中高齢者に対する遡及(回想)調査を通じた構造分析をもとに-

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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1.
現代の日本社会は、人生80 年を超す長寿が期待される一方で、社会の質的貧困さにも象徴されるように、人生や生き方に悩む人は少なくないと想像される。その背景には、人生や生き方に関する教育・サポート(素材・機会)の不在がある。人生をより客観的に指南できる知財開発ができれば社会的にも有用である。
2.
「ジェロントロジー」は高齢者研究、高齢社会研究のイメージが強いが、加齢研究の要素も含む。主に高齢者や高齢社会のあり様を多角的俯瞰的に描写するところに特徴を持つが、それは次代の高齢者である若中年層からみると、長い人生を学ぶ素材となる。老年学、加齢学と邦訳されることが多いが、この視点に立つと「人生の未来学」と捉えられる。
3.
人生を客観的に指南する知財開発に向けた基礎調査として、ジェロントロジーの考え方にもとづく独自調査を行った。「どのような人が、どのような人生過程を経て、どのような中高齢期を迎えているか」、その構造を探るものである。本論文では、とりわけQOL(人生の質)とパーソナリティ(個人の内面)との関係に着目し、より豊かな長寿を自ら創造していくための客観的知見を見出すことを目的とした。本研究において、パーソナリティは、性格と心の知能指数と呼ばれるEQ能力、QOLは回答結果から得られる身体的健康度、人生満足度、経済状況の3要素から操作的に概念を形成した。
4.
QOLとパーソナリティとの関係を構造的に解明するために、構造方程式モデリング分析を行った結果、QOLとEQ能力ならびに性格要素の一部において、統計的に有意な関係性が認められた(モデル適合度/AGFI=.843、RMSEA=.092)。この結果、EQ能力、つまり自分と他人の心を理解しコントロールする能力を高めていくことと、性格要素の関係から思いやりの心と自己表現を意識していくことが、人生の質を高める可能性があることが示唆された。
5.
QOLおよびパーソナリティといった抽象的概念の関係を数量的に実証できたことは、本研究の一つの意義と考えられる。今後は、本研究の拡大・深化を通じ、人生を客観的に指南できる知財開発に取組んでいきたい。

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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