コラム
2007年01月09日

「GDPギャップ」はプラスなのかマイナスなのか~金融政策を占う材料に

経済研究部 経済調査室長   斎藤 太郎

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1. 大幅に下方改定された2005年度の経済成長率

昨年12月1日に内閣府が公表した2005年度の国民経済計算確報によって、2005年度の実質GDP成長率は速報段階の3.3%から2.4%へと大幅に下方改定された。2005年度といえば、1年近くも前のことになるが、今回の成長率の改定は過去の数字として片付けてしまうことができない程、重大な意味を持っている。2005年度が3%を超える高成長となったことで、GDPギャップ(=需給ギャップ)がプラス圏に浮上したということはコンセンサスになっていたが、こうした見方が根底から覆される可能性が出てきたからだ。

さらに、12月8日に公表された2006年7-9月期GDP2次速報では、2006年4-6月期、7-9月期の成長率がともに下方改定された(4-6月期:前期比年率1.5%→1.1%、7-9月期:同2.0%→0.8%)。その結果、2006年7-9月期の実質GDPの水準は、11月に発表された7-9月期1次速報時点と比べて1.3%も低くなってしまったのである。

2. 内閣府試算のGDPギャップはマイナスに

GDPギャップとは、日本経済の供給力と総需要との乖離を示す。具体的には、GDPギャップ=(現実のGDP-潜在GDP)/潜在GDPによって表され、この値がプラスであれば需要超過、マイナスであれば供給超過を意味する。GDPギャップの定義式から分かるように、潜在GDPが変わらずに現実のGDPが下方改定されれば、GDPギャップはその分だけ小さくなる。たとえば、改定前のGDPギャップがプラス1%だった場合、現実のGDPが1%以上の下方改定となれば、GDPギャップはマイナスに転じることになる。

しかし、実際には現実のGDPが改定されると、潜在GDPも変わってしまう。潜在GDPはあくまでも現実のGDPから推計するため、GDPの実績値が下方改定されれば、潜在GDPの推計値も下方修正されてしまうためである。足もとの潜在成長率は1%台後半というのがこれまでの大方の見方だったが、GDP成長率の下方改定に伴い潜在成長率も下方修正される可能性が高い。プラスとなっていたGDPギャップがマイナスになるかどうかは、現実のGDPと潜在GDPのそれぞれの下方修正幅によって決まることになる。

内閣府は12月中頃に、2005年度確報、2006年4-6月期、7-9月期の改定値を反映したGDPギャップの試算値を明らかにした。従来のデータを使って算出したGDPギャップは2006年1-3月期から7-9月期までプラスとなっていた。しかし、新しいデータを用いた試算値では、2006年1-3月期は若干のプラスとなったものの、4-6月期はゼロ、7-9月期には0.1%のマイナスとなった。潜在GDP成長率は従来の1.6%から1.3%(ともに2005年度の数値)へと下方修正されたが、現実のGDPの下方改定幅が大きかったため、GDPギャップは足もとではマイナスに転じるという試算結果となった。

3. 日銀推計のGDPギャップはどうなるのか

日銀は、昨年4月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」で、独自に推計した潜在GDPをもとに、「マクロ的な需給ギャップはゼロ近傍にある」という判断を示した。ゼロ金利政策を解除した7月の「金融経済月報」では、「マクロ的な需給ギャップは需要超過状態に入ってきている」と需給ギャップの見方を上方修正し、景気判断についても「着実に回復」から「緩やかに拡大」へと変更した。その後、需給ギャップ、景気判断については同じ表現が用いられており、GDP統計が大幅に改定された後の12月の「金融経済月報(12/19公表)」でもそれは変わらなかった。

半年前の本欄(2006.7.24「GDPギャップ」過信の危うさ)で述べたように、筆者は統計の改定や推計方法の違いによって様々な値を取りうるGDPギャップを、景気判断や金融政策の判断材料として重視することには、懐疑的である。しかし、日銀がここまでGDPギャップ(=需給ギャップ)を前面に押し出してきた以上、金融政策運営の一貫性、説明責任の観点から、新しいデータに基づいたGDPギャップの推計結果をできるだけ早く示すべきであると考える。

1月の金融政策決定会合(1/17,18開催予定)では、昨年10月に公表した展望レポートの中間評価を行うことになっており、ここで、GDP統計の改定によってGDPギャップがどのように変化したかが議論され、その結論が公表される可能性がある。再推計の結果、足もとのGDPギャップがマイナスということになれば、「消費者物価の前年比は、マクロ的な需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていく」というこれまでの日銀のシナリオは修正を余儀なくされる。2006年10-12月期以降の成長率が潜在成長率を上回り、GDPギャップがプラスになったことが確認されるまで、追加利上げは見送られることになるだろう。再推計の結果、GDPギャップが足もとでもプラスを維持しているというのであれば、早期利上げの可能性は残るが、その場合には、昨年4月の展望レポートで1%台後半としていた潜在成長率がどの程度下方修正されたかを示す必要があろう。

GDP統計の大幅改定によって、足もとのGDPギャップがプラスを維持しているかどうかは微妙な状況となった。こうした中、日銀が潜在成長率、GDPギャップの見方をどのように変更するかは、金融政策の先行きを占う上で、極めて重要な判断材料となるだろう。
 

 

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経済研究部   経済調査室長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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