2006年12月25日

開業率の地域格差に関するパネル分析

  小本 恵照

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1.
地域の開業率には大きな格差が存在する。2001年から2004年にかけての都道府県別の開業率(以下、「2004年開業率」と呼ぶ)を見ると、開業率が最も高い沖縄県(6.1%)と最も低い福井県(2.8%)では、開業率の水準には2 倍以上の開きがある。
2.
2004年開業率に見られた都道府県間の開業率格差は、その年に特有なものではなく、構造的なものである。2004年開業率を5年前(1999 年開業率)および10年前の開業率(1994年開業率)と比較すると、いずれとも強い相関が観測される。ただし、2004年開業率と1994年開業率の相関は、2004年開業率と1999年開業率の相関に比べると小さく、地域間の開業率格差は時の経過とともに緩やかなペースで変化している。また、新設事業所に占める零細事業所の割合や業種の構成比についても地域間格差が見られ、その関係は長期間持続している。
3.
地域間の開業率格差の要因を調べるため、2004年開業率、1999年開業率、1994年開業率を被説明変数とするパネル分析を行った。その結果を見ると、失業率、世帯数の増加率、課税所得の増加率、および地価が高いほど、開業が促進される傾向が明らかとなった。人口構成については、65歳以上の高齢者が多くなるほど開業率が低下することが判明した。広義サービス業比率(第3 次産業比率)は開業率にプラス効果を持ち、サービス経済化の進展が開業を促進させることが明らかとなった。また、高度な職務経験を有する人は開業を志向しないことも明らかとなった
4.
パネル分析では、開業率に影響を与える、説明変数以外の地域固有の要因(固定効果)を測定することができる。それを見ると、中国地方、四国地方、九州地方において開業を促進する要因が強く働いていることが判明した。その要因の具体的な中身については、パネル分析からは明らかにはならないが、都道府県の創業支援策や創業を志向する都道府県民性などが影響を与えている可能性がある。
5.
今回の開業率に関する要因分析のインプリケーションとしては、以下の点が挙げられる。第1は、地域需要や所得の増加が開業を促進することが明らかになったことである。この結果を踏まえると、地域の需要を増やすことが重要となる。しかし、政府の財政状況を考慮すると、かつてのバラマキ型の公共事業などではなく、地域の実情に見合った効果的な地域支援のメリハリのついた実施が求められる。第2に、地価や世帯数の増加が開業率を高めることが明らかとなった。地価は地域の魅力を示す指標と考えることができる。そこで、地域の魅力を高め、地域に人を呼び込み世帯数を増やすことが開業率の向上につながることになる。地域の活性化に向けて、各地域が知恵を絞り地域間での競争が活発化することを期待したい。第3 に、失業率が開業を促していることが明らかとなったが、失業者による創業は、雇用者による創業よりも存続・成長が低いと言われている(岡室, 2006)。失業者は資金力に乏しく、開業準備も十分でないことが、その背景にあると考えられる。失業者の開業に当たっての指導が十分実施できるよう、開業支援策のPRの強化とキメ細かい対応が期待される。最後に、高度な職務経験を有する人が開業する傾向が小さいことが明らかとなったが、これは、逆に言うとあまり専門性のない人が多く開業していることを意味している。しかし、専門知識を持たない人の開業の成功の可能性は低い。人的資本や知識・ノウハウが企業の競争優位を決定する傾向が強まる中では、専門的な知識をベースとする革新的なイノベーションが果す役割はますます高まっている。開業率を高めるためには、専門的知識を有する人が開業を目指すように、起業家教育などを通じた知識涵養や意識改革も必要かと思われる。

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