2006年11月01日

消費税の逆進性の問題に関する考察

篠原 哲

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  • 消費税率の引き上げ議論はひとまず来年度以降に先送りされた。しかし、決して将来的に消費税の増税の可能性がなくなった訳ではない。今後の、税率の引き上げに向けた課題として、消費税の逆進性の問題がある。逆進性とは、消費税は全ての所得階層に対して同率の税率が課せられるが、一般的に、低所得者層のほうが高所得者層に比べて消費性向が高いため、相対的に低所得者に対する負担が高くなってしまうという問題のことを指す。
     
  • 家計調査の世帯別の収入・支出データを用いた分析からは、年間可処分所得が低くなればなるほど、世帯における消費税の課税対象項目に対する消費性向(本稿では課税消費性向と呼ぶ)が高くなるという関係が見られ、これより消費税率の引き上げを実施することで、低所得者層で負担が相対的に重くなっていき、「逆進性の問題」がより顕在化してくる可能性を指摘できる。
     
  • 反面、「食料」を除いた支出に対する消費性向と、可処分所得の間には、明確な関係は確認できず、所得が低くなるほど消費性向が高くなるという関係が見られない。このため、我が国でも食品に対して軽減税率を導入することが、逆進性の緩和に有効であることが示唆される。
     
  • 今後、税率の引き上げを実施していくのであれば、軽減税率の導入などにより、逆進性の緩和を図っていく必要性が生じてくると考えられる。ただし、軽減税率には、「対象となる範囲をどのように設定するか」という点や、「消費税率が何%になってから軽減税率を導入するべきか」などの、見解を統一することが難しい問題が存在する。さらに、実際に軽減税率が導入されれば、業者の負担が増すことや、消費者にも購入の際に混乱が生じる可能性もあり、導入に向けてのハードルは決して低いものではない。
     
  • 今後の消費税率の引き上げに向けた議論のなかでは、税率引き上げの「時期」と「幅」の問題のみに留まらず、軽減税率の導入など、逆進性の緩和や実施上の諸問題について、幅広く検討を進めていくことが必要であろう。
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(2006年11月01日「経済調査レポート」)

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