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本論は、金融市場で特に関心の高い短観(業況判断指数)、四半期別GDP速報、消費者物価指数(CPI)、失業率、鉱工業生産指数(IIP)、有効求人倍率の6つの経済指標について、民間機関の予測値の統計的属性の検討を通じて、正確性及び予測の形成過程について実証分析を行う。
本論で得られた結論を要約すると以下の通りとなる。
1.
市場コンセンサスの予測の正確性を平均絶対誤差、平均平方誤差で判断すると有効求人倍率、失業率、CPI、GDP、IIP、短観の順番で予測が正確である。
2.
有効求人倍率、失業率の予測精度が高いのは実績値自体の変動が小さいことにある。推計期間中の予測値109回のうち有効求人倍率はほぼ半分の59 回、失業率は6割強の66 回と、前月実績値と同水準の計数が予測値となっている(ナイーブ予測)。
3.
有効求人倍率は、ナイーブ予測的な要素もみられるが、前月実績値とは異なる予測形成の場合には順張り的な予測形成であるとも言える。有効求人倍率の予測はバイアスを含むものとなっており、景気拡張(後退)期にはマイナス(プラス)のサプライズが生じやすい。つまり、市場コンセンサスが連続して実績値と乖離しやすい。
4.
予測系列が利用可能な短観、CPI、IIPは、予測系列が各指標の実績値と一方向のバイアスを有しているものの、予測系列の情報を利用した予測が行われている。
予測系列よりも市場コンセンサスの方が、予測精度が高くなっているのもこの影響が大きいと推察される。
5.
CPIは、他の景気指標と異なり、過去の情報を利用した予測形成が行われていない。しかし、予測系列(東京都区部CPI)の情報を利用した予測が行われ、予測精度が高くなっている。予測系列のウエイト組み換えにより予測が行えることから、市場コンセンサスにおけるバイアスの存在が否定される結果となっている。
6.
短観は、予測系列(先行き)があるにもかかわらず、実績値の変動が大きいことから予測精度は高くない。予測形成にあたっては過去の情報を利用した順張り的な予測形成となっている。
7.
IIPは、予測系列(製造工業予測指数)があるにもかかわらず、予測系列の精度が低く、かつ実績値の変動が大きいことから、予測精度は低い。本論推計期間では予測系列が実績値に対して過小となっていることから、市場コンセンサスもバイアスの存在が否定できないものとなっている。
8.
GDPは、過去の情報をもとに予測形成がなされており、いずれ過去の平均的な状態に回帰するという予測形成過程にあるとみられる。
日本大学経済学部教授 小巻 泰之
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