2006年05月01日

歳出・歳入一体改革の展望

篠原 哲

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  1. 「歳出・歳入一体改革」の中間とりまとめ(以降「中間報告」)が4月7日に公表された。今回の「中間報告」では、改革の時間軸として、2010年代初頭の黒字化の後、2010年代半ばにかけて債務残高の名目GDP比を安定的に引き下げるという目標が明記された。

  2. 昨年後半以降、経済財政諮問会議などでは、名目経済成長率と金利の関係について論争が巻き起こっている。それは両者の水準の違いにより、債務残高GDP比を引き下げていくために必要な黒字幅、そしてその実現に向けた政策のスタンスが変わってくるためである。金利が成長率よりも高いという、財政再建にとって堅実な前提に立てば、プライマリーバランス均衡後の目標としては、諮問会議でも指摘されるように国と地方を合わせたプライマリーバランスの2%程度の黒字を長期的に実現していくことがひとつの目安になるのではないか。

  3. 「歳出・歳入一体改革」の中間とりまとめでは、まずは歳出削減を徹底する方針が示された。しかし、本年1月20日に閣議決定された「改革と展望(2005年度改定)」等でも示されているように、これらの歳出サイドの改革のみで、プライマリーバランスを持続的に黒字化し、財政再建を実現できるとは考えにくい。一方では消費税に代表される増税の実施により、歳入の拡大を図っていくことも視野に入ってくる。このため、財政再建に向けては、まさしく歳出削減と増税を組み合わせるという、歳出・歳入の一体改革が必要になる。

  4. 財政再建に向けては、増税の実施自体は避けられないものと考えられる。しかし、一方で留意すべきことは、増税の実施が歳出削減に先行すると、財源が確保され、歳出削減の取り組みがおろそかになってしまう恐れがある点ではないだろうか。歳出削減の動きが緩まれば、公的部門等の効率化も進まず、増税に対する国民の理解を得ることが難しくなるばかりか、必要となる増税規模も過大となる可能性がある。

  5. 6月に公表される「骨太の方針」に盛り込まれる「歳出・歳入の一体改革」では、目標となるプライマリーバランスの黒字幅、そしてそれを達成するための歳出削減と増税の組み合わせが提示されることが期待される。なかでも増税の前に、どの程度の歳出削減の道筋をつけられるかは、当面の目標であるプライマリーバランス均衡・黒字化の実現を大きく左右するものだ。そして、それは今後、増税に対する国民の理解を得ていくうえでも重要な意味を持つ。社会保障や地方交付税など、歳出に占めるウェイトが大きい分野の抑制についても、具体的な方向性が示されることを期待したい。

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