2006年03月25日

企業ファイナンスにおける一考察

京都大学経営管理大学院 川北 英隆

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日本の株式市場において企業買収や株式の買い集めが日常的に生じるようになった。このため、企業価値や、企業買収に対する防衛策への関心が高まっている。
企業が内部留保を手厚く積んで不要な現預金や有価証券を保有することは、企業価値を引き下げると同時に、企業買収や株式の買い集めを誘発するとされる。
原材料仕入れ代金や賃金等の支払いのタイミングと、売上を現金として回収するタイミングにはずれがある。そのずれを補うため、運転資金として現預金や短期有価証券を保有することが必要である。では、どの程度の量の現預金や有価証券を保有することが望ましいのであろうか。
このことを考えるため、業績変動の激しい電炉業界と、業績が安定している放送業界を取り上げ、比較した。放送業界はここ最近、企業買収や株式の買い集めの対象となってきた業界でもある。
比較によって得られた結論は次のようなものである。
・電炉業界のように業績変動が激しい場合、将来の業績の極端な悪化に備え、現預金や有価証券を豊富に保有しておくことが合理的である。
・放送業界のように業績が安定している場合には、多額の現預金や有価証券を保有する合理的な理由がない。多額の現預金や有価証券を保有することによって企業買収や株式買い集めを誘発するというマイナス効果を考えると、配当支払いや自己株式の取得などの方法を用い、現預金や有価証券の社外流出を図るべきである。
・企業価値の算定や株主総会での議決権行使についても、同じ現預金や有価証券の保有に関して、電炉業界と放送業界とでは異なった評価が与えられるべきである。

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