コラム
2006年02月20日

分散型経済の勧め

櫨(はじ) 浩一

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1.快適な平日のスキー場

平日に思い切って休みを取り、久しぶりにスキーに行ってきた。この冬は昭和38年の「三八豪雪」以来の大豪雪ということで雪もたっぷりあり、天気にも恵まれた。だが何といっても一番満足したのは、スキー場が空いていたことである。バブル崩壊後はスキー場も経営難が伝えられていたから、利用者が減っているということはあるだろうが、ホテルの従業員の話ではやはり何といっても平日だからということだ。リフトはガラガラで待たずに乗れるし、宿泊料も格安であった。できればまた行きたいものだと思うが、残念ながら平日にそうそう休みが取れるものではないし、休日に行くのは料金の高さと混雑を考えれば二の足を踏まざるを得ない。

2.集中が高価格を招く

日本ではリゾート地での料金が高いという話をしばしば耳にする。これは利用者が一時期に集中することが一つの原因だ。スキー場などでは休日や正月休みに集中するし、夏休みの時期でもお盆前後にリゾート地の利用が集中する。スキー場のリフトは正月や休日には満員で行列ができても、平日はガラガラで空気を運んでいるということになる。夏休みに旅行しようとすると、お盆の前後は飛行機も列車もホテルも満員で予約を取るのも至難の業である。
ホテルでもレジャー施設でもピーク時に対応した設備投資を行えば平均を大きく超えた利用者に対応する能力が必要となり、どうしてもピーク時以外の稼働率が低くなる。日本の場合には、休暇でも何でもピーク時に集中し過ぎるために、社会全体としての効率が低下してしまっている。この結果として、料金が高くなってしまうという構造である。
こうした問題はリゾートだけに限らない。通勤・通学時間帯にはすし詰め状態の電車も昼間はガラガラである。鉄道会社ではピーク時の利用を避けて「オフピーク通勤・通学」を呼びかけているが、なかなか浸透しない。
企業などではフレックスタイム制の導入も徐々には進みつつあるが、顧客対応や仕事の効率、従業員の管理や評価面などの問題も指摘されている。確かに生産活動を考えれば、一斉に働き初めて一斉に休むというやり方が効率的だ。しかしその一方で、生産以外の側面では、日本社会は極めて非効率的になってしまったのではないか?


3.休暇の分散を

企業や組織の効率化のために分散と集中のどちらが良いのかは永遠のテーマだろう。情報通信手段の発達によって分散化が進むかと思えば、個人情報の保護などセキュリティの問題から逆に集中管理の方向に動いたりもする。その時々の技術や経済・社会的な要請によって、どちらの方が対応力が優れているのかも変わるし、集中・分散のどちらかに行き過ぎて問題が露わとなった結果、逆方向に戻ってくるということもある。
しかし、日本の社会は「生産」の効率を求める一方で、生活の効率があまりに軽視されてきたのではないか。夏休みの集中やレジャー客の休日への集中によってレジャー施設の効率が著しく低下してしまったことも、その一つではないだろうか。少なくとも休暇に関する限り集中の方向に行き過ぎており、分散が必要なことだけは確かだろう。



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