2005年09月25日

中高年生活者のリスク性金融商品利用に関する一考察 -金融行動の成熟度と投資余力による類型化をもとに-

栗林 敦子

生活研究部 井上 智紀

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1.
金融知識・判断力と投資余力の面から中高年生活者を類型化し、各類型あるいは、類型間のシフトとリスク性商品選好度の関連を分析し、今後金融取引上のトラブルに遭遇する可能性のある層を見いだし、特性を明らかにした。
2.
金融商品の利用と金融知識の現状と推移に関する分析を行った。リスク性商品の利用層の中心は61~65歳の定年直後の層や貯蓄や収入面で豊かな層であった。金融商品の認知という面で金融知識をみると、各調査年とも、年齢が上がるほど知識レベルは低下、貯蓄や収入が高まるほど知識レベルが上昇することが明らかになった。
3.
金融行動における「成熟度」と「投資余力」という指標を作成し、それぞれの特性を分析した。成熟度は、情報収集能力や冷静な判断力などを包含する指標であり、調査年ごとにみると、6割の人の成熟度は比較的固定しており、高から低、あるいは低から高にはそれぞれ2割程度がシフトするということがわかった。
4.
一方、投資余力は引退期にある生活者の生涯にわたる収支および貯蓄と負債のバランスを表す指標であり、調査時点間のライフイベントとの関係では、01年調査から03年調査にかけては、倒産経験が、99年調査から01年調査にかけては、解雇経験が、それぞれ投資余力を低下させており、99年調査から01年調査にかけては、退職経験が投資余力を上昇させていることがわかった。
5.
成熟度の高低と投資余力の有無という基準を用いて、中高年生活者を4つのグループに分類した。リスク性商品の利用数やリスク選好度は、各調査年とも、投資余力が小さく高成熟なグループや投資余力が大きく低成熟なグループで強い。この2グループでリスク選好度の要因を比較した結果、後者では持家などで生活の安定を確保しつつ余裕資金の範囲で資産運用を行っている可能性が示唆された。
6.
類型のシフトについてみると、類型間のシフトが大きいのは、99~01年では、高成熟で投資余力があるグループとないグループ間、高成熟で投資余力のないグループと低成熟で投資余力があるグループ間である。01~03年は99年~01年よりも全体的に動きが少なかったが、高成熟で投資余力のあるグループから低成熟で投資余力がないグループへ、高成熟で投資余力がないグループから低成熟で投資余力があるグループへのシフトが大きかった。シフトのパターンの中では、高成熟で投資余力のないグループと低成熟で投資余力があるグループの間でシフトした層はリスク選好度が高く、金融取引上のトラブルの可能性があることが明らかになった。

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