2005年09月25日

親世代からみた「パラサイト・シングル」の実態

武石 恵美子

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1.
未婚の成人の子が親と同居する「パラサイト・シングル」は、少子化の背景にある非婚化・晩婚化の要因としても注目されてきた。これまで、高齢期の親と子の同居は、子世代が親を扶養するという側面からのアプローチが多く、親世代の低い所得を子世代が支援するという形が一般的であった。しかし、高齢者の子世代との同居の類型に、成人未婚子との同居が増えてきたことで、親子の関係が変質している可能性がある。本稿では、「パラサイト・シングル」増加の背景について、主に親の経済力と家族観の変化の側面から接近するとともに、成人未婚子との同居により親子関係がどう変化しているのか、さらに親世代の今後の生活設計に影響があるのか、という面から課題を抽出することを目的に、中高年パネル調査のデータ分析を行った。
2.
パラサイト世帯は、2003年で調査対象者の1/3 を占め、対象者の年齢が高まっているにもかかわらずこの割合はあまり低下していない。また、パラサイト世帯は政令指定都市などの都市部で多く、近年息子との同居が増える傾向にある。特に町村では息子との同居傾向が顕著である。さらに、子どもの年齢も上昇し、無業の子どもとの同居割合も高まるなど、同居する子どもの属性も変化している。
3.
パラサイト世帯の親は、学歴が高い層、現在就業中、大企業に勤務していた層、といった特徴がみられている。経済的な側面をみると、フローの所得が高い場合にパラサイトが選択される確率が高くなるが、ストックである貯蓄額は影響しない。また、家族観に関しては、「子どもは家を継ぐという役割がある」といった伝統的な「家規範意識」が、パラサイト世帯の親で弱い傾向がみられている。
4.
パラサイト世帯の親子関係の特徴や親の意識から課題を検討した結果、まず、パラサイト世帯の家族関係が非パラサイト世帯に比べて親密で良好といった傾向はみられない。子どもとの関係満足度は、パラサイト世帯で低い傾向がみられ、特にパラサイトを開始すると満足度が低下し、パラサイトを終了すると満足度が上昇するなど、未婚子との同居が、親の意識の側面を見る限りは親子関係にマイナスの影響を及ぼしている可能性もある。その他、現在の収入、現在の貯蓄、将来への備えの満足度もパラサイト世帯で低い傾向にある。さらに、老後の生活への不安など、今後の生活不安はパラサイト世帯で高くなっており、未婚の子との同居が、親の生活不安に影を落としている可能性が指摘できる。
5.
本調査対象は、おおむね団塊の世代よりも上の年齢の男性である。この世代は、年金制度や高齢期の就業環境にも比較的恵まれ、成人未婚子の同居を受け入れる経済的条件が整っているケースが多いと考えられる。しかし、この世代でも、パラサイト世帯の親で老後に不安を感じる傾向がみられている。今後団塊の世代よりも下の年代の層が同様に成人未婚子の同居を受け入れることは難しくなると考えられ、成人未婚子が親元を離れて独立することを促すための政策が必要である。

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武石 恵美子

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