2005年08月25日

真のクラスター創生に向けて -都道府県別の工場用地分析を中心に-

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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1.
大企業を中心に一部の企業が土地取得に動いており、先進事例では土地投資と設備投資、立地、企業財務など複数の戦略間の最適化が図られている。また工場の立地選択では、産業集積の成熟度を中心に既存拠点との近接性など複数条件の総合的評価による立地最適化が追求されているとみられる。
2.
製造業企業の立地選択の結果である工場立地面積を都道府県別に分析すると、工場用地の敷地面積の比較的大きい地域群のなかに高水準の立地面積を確保している地域が多くみられる。高い技術力を有する多様な企業群が集積し、インフラも完備されている地域では、継続的な産業集積が起こる結果、敷地面積が拡大していくと考えられる。「集積の好循環」が新規立地の大きな誘因となるのである。
3.
産業集積の成熟度の違いから、同じ水準の企業誘致策を講じても自治体間で企業誘致の成果が異なってくることが考えられる。産業集積が十分に進展していない自治体では、集積の好循環にある自治体に比べより多くのコスト負担が必要になるだろう。このような地域では、立地面積の大きさを競わずに、広い敷地を要しない研究開発型の高付加価値産業を誘致・育成する選択肢も考えられよう。
4.
工場用地の敷地面積増減を都道府県別に分析すると、この10 年間で少数の地域で純増する一方、都市圏を中心に大半の地域で純減となった。自動車産業を核に産業集積が進展し、全国で最大の敷地面積を誇る愛知県でさえ、この10 年間では繊維産業の大幅縮小の影響から純減となった。工場の縮小・閉鎖などによる工場用地の「廃棄面積」を推定すると、都市圏地域や北海道が大きかった。
5.
工場立地が地域にもたらす経済効果を評価するためには、付加価値の視点を取り入れる必要がある。そこで「工場用地生産性」(事業所付加価値額÷敷地面積)を分析すると、愛知県や徳島県など一部の先行地域では、独自の戦略が高水準の「工場用地回転率」(敷地面積当たり出荷額)や「事業所付加価値率」の向上につながり、付加価値を成長させることに成功していることが考察された。一方、群を抜く生産性を確保してきた東京都など都市圏の地域では、生産性水準は高いものの大幅な減少となっている。このなかで神奈川県では、従来の量産型産業構造から研究開発型の産業構造へ転換すべく、研究開発関連の誘致に重点を置いた大型の助成制度が昨年新設され、早くも大型案件の誘致につながっている。
6.
イノベーションや付加価値を継続的に創出する「真のクラスター」の形成には、産業集積の成熟度などに着目した立地最適化という経済合理性の追求に加え、人的資源の集積や産学官連携が促進されるような取組が望まれ、クラスターに内在する構成員間のネットワーク、信頼感、規範など、いわゆる「ソーシャル・キャピタル」の涵養に資する取組も重要であることを指摘したい。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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