コラム
2005年08月11日

コミュニケーションツールとしての長期金利

経済研究部 チーフエコノミスト   矢嶋 康次

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○ 現実味を帯びる金融政策転換の論議

政府・日銀は9日、日本の景気の踊り場脱却を宣言した。 10日の東京株式市場で日経平均株価は、1万2098円8銭と年初来高値を更新、終値で昨年4月28日以来ほぼ1年4カ月ぶりに1万2000円の大台を回復した。政局の流動化、不透明感などの懸念材料はあるものの、ここにきて国内景気の回復期待が急速に広がっているため投資家の買いが進んでいるようだ。こうなってくると秋口以降、コア消費者物価指数が前年比プラスとなる可能性が高いだけに、日銀の金融政策が量的金融緩和解除(「出口」)に踏み込む動きが現実味を帯びてくる。

出口に向けた議論の中心は、コミットメントにあるCPI上昇率が「安定的にゼロを上回る」とはどの程度なのかといった、いわゆる「糊しろ」を巡る議論になるだろう。その際、CPIの上方バイアスや基準年改定の影響の存在が争点となって、早めに解除をしたい日銀とできるだけ解除時期を遅らせたい当局との綱引きが繰り広げられることになりそうだ。

この糊しろの議論とともに出口政策で重要となってくるのが、緩和政策解除後に、必要以上に長期金利を上昇させないで安定させることができるかという点だ。日銀の金融政策には、今までのデフレ状態からの脱却という政策課題から、今度はインフレの行き過ぎ・長期金利の急騰防止という新たな課題が突きつけられることになるが、移行期においては、これら矛盾する課題は金融政策だけでの克服は不可能だろう。歳出カットや消費税引き上げなど歳入増政策などの政治・財政政策との関係、国債管理政策などなど複数の問題が複雑に絡んでくるのである。  

○ 段階を踏んだ市場との対話を

ところで、金融政策に多分に期待されるのが、金融市場の混乱を避けるために市場との対話を通じ、投資家への不確実性をいかに減じさせるかという効果であろう。米FRBのような市場との対話のうまさが求められることになる。ゼロ金利や時間軸効果に期待する特殊な状況でない通常の状態ならば、投資家はいろいろな情報から、将来の経済金融像を予想し、それに見合う金利のファンダメンタルズバリューを予想する。日銀自体も金利の予想を行う。日銀はいろいろな情報発信を通じて、民間の予想に働きかけ、民間はこうした情報から日銀の意図する将来像を読み取る。民間が日銀の情報発信にどの程度予想を修正したかは、長期金利の動きとなり両者の予想が長期金利を通じて対話することになる。 しかし、現在の日銀の金融政策のもとでは、当面短期金利がゼロであることを日銀がコミットすることで金利のファンダメンタルズバリューよりも、長期金利が低めに抑えられている。また、大量の資金供給により短期金利がゼロに押さえられており、量的金融緩和解除で本来形成される長期金利の水準よりもさらに下となっている可能性も高い。こうして、将来の経済金融像について日銀と市場が対話を行えるツールとしての長期金利の役割は、期待できない状況にあるのだ。

市場との対話を強化するには、段階を踏まえて策を打っていくしかないだろう。つまりツールが機能する前は、できるだけ相手(市場)に自分(日銀)を信頼してもらうような情報発信を強化する。その後ツールが回復してきた段階では、本来ある金利のファンダメンタルバリューについて真剣に市場と対話を行うことだ。具体的に今の状況を踏まえれば、筆者は以下の点が重要だと見る。

(1) 長期金利というツールが機能しない状況(現状)では、日銀サイドの情報発信は、今までよりも踏み込んで市場に発信すること(この一つの試みが、4月の展望リポートで従来の05年度に加えて、06年度の実質GDP、消費者物価指数などの見通しも公表したことであると筆者は考えている)。
(2) 「出口」議論をスタートした段階からは、時間軸効果は剥落し、長期金利は上昇する。その際、それはツールとしての機能回復の過程であり、それを無理に再び引き下げるようなことはできるだけ行わないこと。
(3) 「出口」議論では、「糊しろ」などその条件に関する議論が中心となりやすいが、「出口」後の政策運営の考え方などについて積極的な見解を発信すること。
 

 

 

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矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融、日本経済

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