コラム
2005年07月19日

上期減益の軽視できない重み

経済研究部 経済調査室長   斎藤 太郎

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1.過去最高を更新する企業収益

7月1日に公表された日銀短観6月調査では、企業の景況感が3期ぶりに改善したが、この背景には過去最高水準を更新する好調な企業収益がある。2004年度の経常利益(全規模・全産業)は、前年度比20.3%と3年連続で二桁の伸びとなった。企業の経常利益計画では、2005年度も前年度比2.7%と伸び率は鈍化するものの、4年連続で増益を確保することが見込まれている。
ただし、年度上期に前年度比▲6.7%といったん減益になった後、下期に同11.4%とV字型の回復を見込んでいる点は気になるところだ。上期の減益については、昨年度までの高い伸びの反動による一時的なものに過ぎないと片付けてしまうことも可能である。しかし、日銀短観6月調査時点で上期減益計画となっていた過去の例を振り返ってみると、厳しい事実に突き当たる。

2.今年度の減益確率は75%?

現行と同様に6月調査(注)で経常利益の年度上期、下期、年度計画が調査されるようになった1984年度以降の例を見ると、6月調査時点で上期計画が減益だったのはこれまでに8回ある。このうち、実際に上期実績が減益となったのは6回、年度を通して減益となったのも6回である。つまり、6月調査時点で年度上期が減益計画だった場合、当年度の実績が減益となる確率は75%と非常に高い。

6月調査時点で上期計画が減益だった8回のうち、(1)前年度実績が減益だったケースが6回(86、87、92、93、94、98年度)、(2)前年度実績が増益だったケースが2回(91、2001年度)である(下表参照)。
(1)のケースでは、そのまま当年度実績が減益となったことが4回と多いが、最終的に増益となったことも2回(87、94年度)ある。この2回はいずれも景気底打ちの時期に当たる。景気回復の初期段階では、企業はなかなか慎重な姿勢を崩さずに弱めの計画を策定する傾向があるが、実際には予想を上回るペースで収益の改善が進み、最終的には増益となったケースである。
一方、(2)のケースでは91、2001年度のいずれも年度実績が減益となっている。前年度が増益の場合、企業はそのまま当年度上期も増益が続くことを見込むこと多い。それにもかかわらず、減益計画になっているということは、企業が年度初めの段階で、すでに前年度までとは違う何らかの変調を認識していたということではないだろうか。いずれの場合も下期の反転により年度では増益を見込んでいたが、実際には企業の期待通りにはならず、最終的に大幅な減益となった。一度方向が変わってしまうと、その流れはそう簡単には止められないということかもしれない。
前年度が増益で、当年度上期の計画が6月調査段階で減益の場合、その年度の実績は減益になる可能性が非常に高いと言える。
 

 


3.2001年度のパターンは避けられるか?

今年度の6月調査の結果は、言うまでもなく(2)のケースに当たり、最近では2001年度と同じパターンである。もちろん過去の例が今回も当てはまるとは限らない。また、当時と現在とでは外部環境が大きく異なっており、単純な比較は必ずしも適当ではない。2001年当時は世界的なITバブル崩壊により海外への輸出が急速に落ち込んでいた時期に当たる。現在、輸出は停滞が続いているものの、かろうじて横這い圏内に踏みとどまっている。
しかし、原油価格高騰に伴う原材料費の上昇は、すでに企業収益を圧迫し始めている。企業の計画では、原材料費の伸びは下期には鈍化する見込みとなっているが、原油価格の上昇はいまだ止まっておらず、さらなるコスト増をもたらす恐れもある。また、最近の雇用・所得環境の改善は、個人消費の回復を後押しし、企業の売上増につながるというプラス面がある一方で、人件費増という企業収益の下押し要因となることも事実である。企業の下期V字回復の計画はやや楽観的と考えざるを得ない。

政府、日銀は企業収益について比較的楽観的な見方を示している。直近(7月)の「月例経済報告」、「金融経済月報」では、ともに2005年度の経常利益が4年連続で増益計画となっていることに関する記述は見られるが、上期の減益計画には触れられていない。この点についてはそれほど問題とは考えていないのかもしれない。
しかし、ここで見たように過去の例を参考に考えれば、現時点での上期減益計画はそれなりの重みを持って受け止めるべきで、あまり軽視してよいものとは思われないのである。

(注)現在の短観調査月は3、6、9、12月だが、1996年以前は2、5、8、11月であった。ここでは、1996年以前については5月調査を6月調査に置き換えて考えている。
 

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経済研究部   経済調査室長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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