2005年07月05日

不動産投資立国で人口減少でも豊かな生活を

  松村 徹

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この2月の『NHKスペシャル』で、米国の有力機関投資家であるカリフォルニア州公務員退職年金基金(CALPERS)の運用責任者が、日本で運用を委託している不動産ファンド会社のマネージャーに対して、目標利回りとして18%を指示する場面があった。この18%という数字は、高いレバレッジを効かせて将来の売却益も見込んだ内部収益率であろうが、異常な超低金利状態で運用難に陥っている日本では突出して高い水準といえる。ところが、現在、国内機関投資家の多くが不動産ファンドに要求するのは高くともせいぜい7~8%とされる。つまり、同じ日本国内の不動産に投資しているにもかかわらず、海外の投資家は20%近い利益を目標に掲げる一方、国内の投資家は、はるかに低い利回りでも満足しているのである。このように両者間で要求利回りに大きな差があるおかげで、海外投資家向けファンドは国内投資家向けファンドに不動産を高く売って売却益を得ることが容易な市場構造になっている。

もちろん、日米の金利差や為替リスクの有無が、要求利回りに反映している面があるのは確かだが、だからといって国内投資家が海外投資家と同じ投資機会や投資リスクをとろうとしない理由にならないのではないだろうか。特に昨今、国内年金基金による不動産ファンド投資が急拡大しているだけに、少子高齢化で年金制度の存続すら危ぶまれるわれわれにとって、このような利回り格差は見過ごしには出来ない。

不動産証券化の進展を背景に、暗黒大陸ともいわれた不動産市場に内外の資金が大量に流れ込むようになったため、「不動産投資立国」の実現をはやす向きがある。しかし、運用の果実の少なからぬ部分が市場の黎明期から大きなリスクを取ってきた海外投資家に還流する一方、周回遅れでおそるおそる参入した国内投資家が、外資の育てた果実に群がって少ない分け前を奪い合っているのが実態ともいえる。確かに、不動産の運用や管理、あるいは不動産金融に関わる手数料ビジネス分野は大きく成長したが、投資面に限れば、国内機関投資家は外資に比べ圧倒的に低いリターンに甘んじており、高値掴みの結果、今後は期待したリターンも確保できない投資家が多数出てくる可能性すらある。

NHKの番組でもうひとつ印象的だったのは、価格上昇で日本が有利な投資先でなくなりつつあるとみた、くだんの運用責任者が「次は中国市場だ」、と言うくだりである。人口増加と経済成長の著しい中国は、政治リスクが大きいものの長期的には不動産市場の拡大が期待でき、人口や世帯数の減少で不動産需要縮小が視野に入った東京が上海に追い抜かれる日がそれほど遠くないかもしれない。自国内に投資機会の少ないシンガポールやオランダが海外の不動産投資に積極的なのは有名だが、国内に投資適格不動産が少なくなる中、コストの安い豊富な資金を海外で活用しようという目先の利くファンド運用会社がようやく日本にも現れてきた。人口減少時代を迎える日本国民が今後も豊かな生活を維持していくためには、日本国内に固執しないグローバルでしたたかな運用戦略が国や機関投資家に求められる。海外からの一方通行ではない、双方向の太い資金の流れを創り出すことこそ、真の「不動産投資立国」の条件と言えるであろう。

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