2005年06月25日

日本における財政再建の効果 -公共投資削減におけるストック面の影響を中心に-

日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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1.
2001年5月の小泉内閣成立以降、財政再建のペースは遅れているものの、一般歳出ベースでみて社会保障関係費を除く全ての費目で歳出削減が実施されている。特に、公共投資は名目GDP比(公的固定資本形成ベース)で1955年以降最低水準にまで削減されている。一方、歳入面では税収不足を公債金が補う形で進められており、形の上では「増税なき財政再建」が進められている。
2.
財政再建にかかるフローの効果については、多くの先行研究がみられるものの、ストック面への効果については、考慮されることは多くない。社会資本ストックの蓄積は、その存在自体が社会的な厚生を向上させるほか、民間資本の生産力を上昇させ、経済活動の生産性を向上させることにつながる。経済の生産性の伸びと社会資本ストックの伸びには正の相関関係が認められ、米国の1970年代における経済成長の低下の原因は、社会資本ストックの増加率が低下し、その平均年齢(Vintage)が上昇したことにあると指摘されている。
3.
公共投資の抑制が続くとすれば、日本の社会資本ストックの伸びは2010年度にかけて1%台まで低下し、Vintage は2000年度14.29年から2010年度16.40年へ上昇することが想定される。この結果、社会資本ストックは、平均耐用年数でみて40%超を経過した資産となり、各年の投資額に占める維持更新のための投資は2010年度には投資額全体の3割程度に達する見込みである。
4.新規の公共投資を増加させることは将来世代の資産を増やすと同時に、一般的に指摘される増税などの負担とは異なった負担も増加させることを意味する。既存の社会資本ストックの維持更新のための費用負担である。今後の課題として、維持可能な社会資本ストックの量について試算することが必要である。財政赤字や国債の発行額などフローの財政変数については、その維持可能性が議論されているが、社会資本ストックの維持可能性はこれまで考慮されることはほとんどない。高齢社会を迎え、維持可能な最適規模に関する社会資本ストックの分析が必要であると考えられる。

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