コラム
2005年06月20日

岐路に至った量的緩和政策

櫨(はじ) 浩一

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 日銀が2001年3月に量的緩和政策に踏み切ってから丸4年が経過し、日銀当座預金残高目標は、当初の5兆円から30-35兆円にまで引き上げられた。5月の金融政策決定会合では、当座預金残高目標の下限を一時的に下回ることが明示的に許容され、実際6月2日、3日の両日は目標の下限を下回る29兆円台となった。その後は下限割れは回避されており、少なくとも当分の間は日銀当座預金残高目標を維持することは技術的に大きな問題は無い模様である。失業率の低下や賃金の下げ止まりなどから政府・日銀は景気の現状に対する見方を少し強めているが、中国やアジア向け輸出の鈍化など先行き懸念も消えない状況にある。市場では、当分の間再び下限割れが起こることはないのではないかという観測も強まっている。
量的緩和の枠組みが維持されるという意味は、「所要準備を大幅に上回る流動性を供給すること」、それを「消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで続ける」という2点であると、福井総裁は記者会見で述べている。これからすると日銀当座預金残高目標を引下げても量的緩和政策は維持されていることになり、デフレ脱却が実現する前でも残高目標の引下げが行われる可能性があることになる。

金融機関の不良債権問題の処理が進み、企業の過剰問題も解消してきたことで、膨れ上がった財政赤字の削減とゼロ金利という異常な状態となった金融政策の正常化など、日本経済の正常化をどういう手順で行っていくのかを考える時期に至ったと言えよう。財政赤字による政府債務の累積は将来増税で賄わなければならず、負担がはっきりしているので多くの人々の注目を集めるが、金融政策の正常化にはどうも専門家を除けばあまり関心が集まらない。
金融政策による負担ということはあまり議論にはならないが、決して量的金融緩和政策を続けることで国民に負担が無いわけではない。今年1月には福井総裁は国会で、バブル崩壊後の金融緩和で家計が毎年受け取る金利収入は十年間の累計で154兆円減少したとの試算を示した。もちろん低金利のおかげで借入れを行っている企業や住宅ローンの負担世帯では利払いが減少しているので、国民全体で考えれば新たな負担が生じているわけではないとも言える。
しかし考え方によっては、家計には平均すれば年間で15兆円余りという現在の所得税や消費税を上回るような大規模な負担が生じたとも言える。量的緩和政策開始時に比べて日銀当座預金残高は約6倍にもなったが、それによってマネーサプライの増加に結びついたようには見えず、いわんや期待されていた消費者物価の上昇という効果ははっきりしない。量的緩和政策をどうするのかという岐路に至った現在、さらにこの政策を続けるのであれば、大きな負担を強いられている家計に対して、政府・日銀は量的緩和政策の効果についてしっかりと説明する責任があるのではないだろうか。

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