コラム
2005年06月06日

M&Aを成功させる近道

  小本 恵照

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1.合併撤回のウラにプライドあり?

5月16日に、中越パルプ工業と三菱製紙は、10月に予定していた合併を白紙撤回すると発表した。1月31日の合併発表から3か月余りで、合併計画が破綻したことになる。新聞報道によると、合併における「対等の精神」が合併計画撤回の主たる原因となったようである。合併が破談に至った経緯は、中越パルプ工業が、その主力販売代理店である日本紙パルプ商事による三菱製紙販売(三菱製紙の子会社)の吸収合併案を提示したことが引き金となった。三菱製紙の佐藤社長は合併実現のため、子会社の吸収合併提案を受け入れたが、三菱製紙および三菱製紙販売の社員が「対等の精神」に反するとして激しく反発し、役員たちも合併反対に回ったため、やむなく合併計画の撤回に至ったと伝えられている。
合併に対する反発の強さは、三菱製紙販売の95%の社員の合併反対署名が即座に集まったことに如実に示されている。三菱社員が対等合併にこだわったのは、三菱製紙および三菱製紙販売には中越パルプ工業と日本紙パルプ商事に対し「格上意識」があり、吸収合併という屈辱的な扱いをそのプライドが許さなかったためと伝えられている。相手企業との対等性に強硬にこだわる従業員の反対が合併撤回にまで追い込んだことは、異なる組織との融合に対する拒絶感の凄まじさを感じさせる。
 

 


2.「対等の精神」が阻害する合併効果

この中越パルプ工業と三菱製紙の事例に見られる、対等意識を背景にした組織融合の難しさは例外的なことではなく、わが国の合併では頻繁に見られるものである。合併の主導権の所在を示すといわれる4要素である、「存続会社」、「新社長」、「新社名」、「本店所在地」を合併会社間で均等に配分し、人事面でも周到な配慮を行うことによって、社員の対等意識を維持することに腐心するケースが多い。なお、2006年4月からは、企業結合会計によって合併は原則パーチェス法が適用され、会計上は一方が他方を吸収合併するかたちが明確となるが、現場での対等意識は引き続き残るものと思われる。
しかし、合併に当たって、こうしたあまりにも強い対等性を確保しなければならないことは、合併のコストが非常に大きいことを示すものである。かりに中越パルプ工業と三菱製紙が計画どおり合併に至ったとしても、両者の組織・人事を融合するには非常に大きな労力と時間を要したであろうことは、想像に難くない。
合併によって規模拡大は実現できるが、対等の精神を反映する「たすきがけ人事」に見られるような硬直的人事を余儀なくされるのであれば、相当な統合ロスが発生する。規模拡大を狙った安易な合併によるだけでは、相乗的にプラス効果を生み出すのは非常に難しい作業のように思われる。

3.M&A成功の近道とは

対等性を確保することに伴う融合の困難さを考えると、対等合併を実行すべき場合は、合併による規模拡大効果自体が非常に大きいという限定されたケースになるのではないか。大半のM&Aでは、対等性に配慮しなくてもよい対象企業や手段を選択し、経営の主導権を確実に掌握できることに主眼を置くことが、M&A成功の近道のように思われる。
その手段としてはいくつか考えられる。一つは救済合併である。経営危機に瀕している企業を合併によって救済することを救済合併と呼ぶが、救済合併の場合には合併が実現しない場合には相手企業は破綻してしまうので、確実に経営の主導権を握ることができる。実際、筆者はかつて合併の効果を財務データによって測定したが、救済合併には収益性を押し上げる結果が観測された。二つ目は規模が格段に違う企業との合併である。企業規模の大きな格差は対等意識を抑制する。三つ目は、合併ではなく買収である。買収の場合には、株主構成は変化するが、被買収会社の企業組織は買収前のものがそのまま維持される。この場合には、組織・人事の融合等に頭を悩ませることなく、株主および経営者の立場から経営の主導権を握ることができる。
M&A仲介会社であるレコフ社(東京)の調査によると、昨年のM&A件数は初めて2000件を超えた。今年に入ってもその勢いは衰えず、1~4月の件数は前年比18.5%増となっている。しかし、M&Aが成功に結びつく保証はない。M&Aにおける大きなコストである組織・人事の融合という難題を上手くクリアし、多くの企業がM&Aで成功することを期待したい。
 

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