コラム
2005年02月21日

京都議定書発効と日本経済

櫨(はじ) 浩一

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1.京都議定書発効

2月16日午後2時に、「京都議定書」が発効した。これによって、日本は二酸化炭素などの排出削減について国際的な義務を負うことになる。
確かに、京都議定書には様々な問題がある。例えば、温室効果ガスの最大の排出国である米国が離脱してしまったままであるため、実際にどの程度の効果があるのか疑わしい。また、発展途上国には排出削減の義務がないため、中国やインドなど排出量が多いにもかかわらず、削減義務のない国の取り扱いも今後の課題である。日本にとっては、もともとエネルギー効率が高いのに、先進国全体の5.2%削減を上回る6%の削減を義務付けられているという点が不公平であるという意見も聞かれる。


2.求められる排出権取引

日本の国内でも、温暖化ガスの排出削減で製造業などの生産が制約されて、経済の拡大ができなくなるという批判もある。確かに、急速に成長する企業などでは、温暖化ガスの排出規制が制約になってしまう恐れが大きい。こうした問題に対しては、日本では依然として導入に対する反対の声が大きいが、排出権の取引を認めて企業が必要な温暖化ガスの排出ができるようにする必要があるだろう。
一見すると公然とルール違反を認める抜け穴のようにも見えるが、お金を払ってでも温暖化ガスの排出がどうしても必要だという企業は、これを使えば何とかなるという安全弁の役割を果たすはずだ。むしろ、こうした制度がないと、困った企業が規制を破ったり、賄賂などの違法な手段で排出権を手に入れようとしたりするという問題を引き起こし易くしてしまうと考えられる。


3.災い転じて福となす

産業活動の観点からは確かに新しい制約条件が加わることで、今までよりはやりにくくなるというのは確かである。しかし、一方で家庭用の省エネ製品が普及していけば、企業にとって新しい需要を喚起することができるというプラスの効果も期待できる。
さらに、米国や中国が制約を受けないからといって、必ずしも日本企業が不利になるとは限らない。例えば日本の自動車産業は、排気ガス規制に対応するなかで、燃費が改善して行き世界市場を席巻するようになった。米国の自動車産業は、政治力で規制を免れようとして、日本企業との競争に敗れる原因になってしまったという見方もある。日本の自動車産業の発展は、厳しい排気ガス規制がきっかけとなったという面もあるわけだ。
排出規制は、短期的には消費者にも産業界にも苦痛を伴うものになるかも知れないが、長い目で見ればむしろチャンスとなる可能性も大きい。京都議定書発効は日本経済にプラスとなるかマイナスとなるかという質問を良く受けるが、それは我々の対応次第というところが大きいのである。


4.消費者の意識改革が不可欠

政府による広報活動が下手なせいだろうが、どうも京都議定書による温室効果ガスの排出規制は企業の問題だという雰囲気があるのは心配である。実は、京都議定書の義務を達成する上で一番問題になりそうなのは、消費者が排出する温室効果ガスである。
環境省の資料によれば、2002年度の二酸化炭素の排出量は、総量では産業部門の排出量が4.7億トンで圧倒的に多い。しかし、家庭部門の排出量は1.7億トンとなり1990年度に比べて約3割も増加している。また、運輸部門も2.2億トンから2.6億トンと約2割の増加となっているが、この大きな要因となっているのは家庭で使う自家用車である。
省エネというと、どうも生活を質素にとか生活レベルを下げるというイメージが付きまとうが、省エネ機器を使えばこれまでの生活を維持したままかなりの省エネルギーが可能なはずである。省エネ型の冷蔵庫などは、今は通常のものに比べて価格が割高となっているが、多くの消費者が省エネ型の機器を選択するようになれば、大量生産によって急速に価格は低下するするだろう。また、電力会社やガス会社では、省エネルギー型の装置を使えば料金を割引する制度を導入するなど、家庭での省エネ機器の利用促進を図っている。消費者の意識が高まれば、省エネ機器は急速に普及するだろう。
 

 


5.いずれは直面する環境問題

京都議定書の問題をあげつらうことは簡単であり、この制約が無い方が短期的には経済や我々の生活が楽かも知れない。しかし、環境問題や資源制約はいずれ人類の発展の大きな制約要因になるはずである。地球の温暖化など取り返しの付かない状況になってしまえば、経済的な損失は計り知れない規模になるだろう。また、早いうちに対応していけば、それだけ対策も余裕のあるものとなり、我々の対応も容易なはずである。京都議定書による温室効果ガスの削減目標を達成することは、容易なことではない。しかし、科学技術の発展や消費者の努力で、必ずやこの問題を解決することができると信じたい。
バブル崩壊後の日本経済は、どうしても不良債権処理など目の前の問題だけに注意が集中し、将来の問題を先送りし勝ちであった。しかし、そろそろ先のことを考える余裕も出てきたのではないだろうか。
 
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