コラム
2005年02月07日

コストに耐える時代から、積極的な収益獲得の時代に

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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○ コストに耐える時代の終焉
大手行の不良債権比率(総与信に占める不良債権残高の比率)は、2004年9月中間期で4.65%に低下している[図1]。政府は2002年10月にまとめた金融再生プログラムで2005年3月末期までに、大手行の不良債権比率を2002年3月期末(8.4%)の半分である4%台前半に引き下げる目標を掲げたが、すでに中間決算でほぼ達成可能な水準となっている。ダイエーなど大口融資先の問題に最後まで悩まされていたUFJグループも含め、大手行の不良債権処理はほぼ最終局面に入った。

 
ただ、財務体質がこのように改善したのは事実であるが、収益面では、明るさが見え始めているとはいえ、持続可能で力強い収益の柱が育っているわけではない。不良債権処理のコストに銀行がどう耐えるかという時代は終わり、高い収益構造をいかに構築し、競争に勝ち残るのか、が経営のテーマとなってきている。


○ 「本業の貸出」復活と「手数料」増加が勝敗の分け目
[図2]は、4メガバンクグループ中核銀行の業務粗利益を3つの要素で分解したものである。

 
銀行の利益である業務粗利益は、大きく3つの利益から構成されている。
(1)「資金利益」:本業の貸出からの利益
(2)「役務取引利益」:手数料収入である
(3)「特定取引利益など」:国債、株といった金融資産などのディーリングによる利益
2004年9月中間期を前年比と比較して見ると、東京三菱を除き業務粗利益が昨年よりも減少している。この減少の要因を利益別に見ると、大きな構造はどの銀行も同じようだ。
(1)貸出が減少し、資金利益が減少
(2)手数料収入は前年比で増加しているが、それ以上に特定取引利益などが減少
(3)よって全体として資金利益の減少以上に、業務粗利益が減少

中間決算で特定取引利益などが大きく減少した理由は、国債等売買損益が大きく減少したことに尽きる。つまり昨年の春先から夏場にかけて長期金利が急上昇し、それによる損がかさんだためだ。確かに、稼げる銀行であるためには運用のうまさも必要なことかもしれないが、ディーリングなどは景気、とくに金融市場の動きに大きく左右され過ぎてしまう。安定した収益体制を構築するためには、残る2つの収益源が重要になる。すなわち「本業の貸出」と、手数料収入である。

○ 融資主戦場は「リテール・ミドル」、手数料はいかに顧客をひきつけるか
貸出は、東京三菱などで一部中小企業向けがプラスに転じたが、全体では依然マイナスが続いている。不良債権処理を乗り越えて、銀行が復活するためには、本業である貸出が増加に転じなくてはならない。また、貸出が増加に転じるような状況になれば、利ざやも乗せやすくなり、資金利益の規模は、貸出額・利ざやのレバレッジ両面で大きく改善することが見込める。
ただし、大企業向けでは、たとえ資金需要が出てきたとしても、(貸出以外の資金調達手段がある大企業向けは)さほど利ざやを上乗せできないため、収益が上がりにくい。必然的にリテールやミドル分野に活路を見出すしかない。実際、昨今は各行とも中小企業向けの融資セクション・人員の増強などを矢継ぎ早に行っている。
ただサーベイ調査などでは、中小企業向けのスプレッドが低下傾向との動きも見て取れる。資金需要がまだ本格的に出ていない現状では、融資額拡大のためにある程度のディスカウント競争は避けられない面はあるが、スプレッド以外にどのような付加価値を企業に提供できるのか、その付加価値競争に持ち込めた銀行は、デフレ脱却で本格的に資金需要も出てきたときには、収益が大きく増加するはずだ。

もう一つは、投資銀行業務や投資信託販売などで確実に増加している手数料をどう伸ばしていくかだ。手数料収入は、規制緩和を生かしつつ、景気変動に左右されずに、収益アップを可能とする潜在価値を秘めていることは間違いない。
そのためには、銀行単体から証券、信託などを含めたサービスの提供を行い、いかに顧客に魅力あるサービスを提供できるかが重要になる。
魅力あるサービスを顧客に提供できれば、顧客の利便性向上とともに信頼・評判も高まり、競争力を勝ち取れる。競争力があればより多くの顧客獲得が可能となり、貸出競争で述べたことと同様に、ディスカウント競争ではなく、逆に付加価値が高まる分、手数料上乗せも可能となろう。

○ どういう知恵が出せるかの競争に
このように見てくると、本業の貸出にも手数料の分野にも共通して言えることは、単なるディスカウント競争で終わらず、付加価値競争に持ち込むための「知恵」が必要であるということだ。
顧客の利便性を上げるための金融サービスをいかに創出し、それを実現するための金融技術や事務・システムインフラをいかに構築し、それらのサービス・技術・インフラを本業の貸出業務にどう融合するのか、コングリマリット化を活かしつつ、顧客の特性に合わせてどのように組み合わせ手数料収益を高めていくのか、・・・・・。海外の例は参考にはなるとしても、日本に合ったものはまったく違っているはずだし、また答えも一つではないだろう。
価格破壊が当たり前となった現在、顧客の低価格志向を打ち破って、付加価値競争に持ち込めるサービスとは何か。大手行は、不良債権処理のコストにどう耐えるかという10年来の競争から、どんな「知恵」が出せるのかという新たな生き残りの競争に入った。
 
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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