2004年12月25日

モデル系ファンドのテクニカル売買と為替レートの変化

伊藤 隆敏

熊谷 潤一

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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近年の為替市場では、コンピューターモデルやテクニカル分析を駆使し、短期の差益を狙って、頻繁に売買を繰り返すことで収益獲得を狙う「モデル系ファンド」の存在感が高まっているとされている。モデル系ファンドの最大の特徴として、高度な統計分析や計量分析によってトレンド形成を判断し、システマティックに売買を行いながら、多くのケースにおいて順張り的発想で相場の流れにうまく乗る点を挙げることができる。株式市場や債券市場に比べて、「ゼロサムゲーム」と言われる為替市場では、市場の厚みがあることや、短期的にはトレンドが観察されることがあることから、モデル系ファンドが活躍しやすい環境にあることが推測される。一方、国際金融の学問的な分野では、いまだに「為替レートはランダム・ウォークに従う」という仮説の信奉者が多く、実務家と学界の距離が大きな分野でもある。
本稿では、テクニカル売買の一般的手法を使って構築された4つの代表的なシステムサインを利用し、それらが点灯させる売買サインを使いながら、モデル系ファンドの投資行動が、(1)為替レートの変化にどの程度の影響を与えているのか、(2)為替レートの均衡水準にどの程度のショックを与えているのかについての実証分析を行った。
主な結論として、システムサイン自体に為替レートの変化に対する先行性を見出すことはできなかったものの、(1)何らかの要因で為替市場にトレンドが形成されつつある時、モデル系ファンドが一斉に一方向に動くことによって、為替相場の流れに加速がつき、オーバーシュートさせやすくなること、(2)その際、モデル系ファンドの動きは、為替レート(ドル円)の変化を0.3%程度増幅させていること、(3)時期によっては、モデル系ファンドの行動は、為替レートを短中期的な均衡水準から乖離させる影響力があること、の3点を確認することができた。
このような結論は、為替市場における学問的研究をさらに刺激する内容を含む一方、為替予測ビジネスのありかたについての示唆に富むものである。

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伊藤 隆敏

熊谷 潤一

総合政策研究部

矢嶋 康次
(やじま やすひで)

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