コラム
2004年08月23日

経済効果の見方・使い方

櫨(はじ) 浩一

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1.猛暑・オリンピック・新札

ようやく朝晩はすごしやすくなったが、熱帯夜で寝苦しい夜が続いた。猛暑による夏バテに加えて、メダルラッシュのオリンピック中継を見ていて睡眠不足となり、体調不良に悩まされている人も多いだろう。今年の夏はとにかく暑かった。東京都心の7月の平均最高気温は33.1度になった。8月に入っても暑い日が続き、東京都心の連続真夏日は新記録となる40日となった。エアコンや氷菓、清涼飲料水、ビールなどの夏物商品の消費が好調である。
また、消費についてはオリンピックによる経済効果も期待されてきた。日本人選手のメダル・ラッシュが続き、時差の関係で競技の時間が深夜となることが多いために、電車でも何となく眠そうな目つきの会社員が目立つ。試合を録画するためにDVDレコーダーを購入する人も多く、地上デジタル放送の開始とあいまって、液晶とプラズマの薄型デジタル放送対応テレビの販売は好調である。
さらに11月には新しい日銀券が発行される。自動販売機や銀行のATMを新札に対応したものに変更するために、メーカーは目が回るほどの忙しさだという。


2.猛暑効果の実態

こうした出来事について様々な機関が発表している経済効果を単純に合計していくと、猛暑で2兆円、オリンピックで9000億円、新札発行で1兆円、、、と日本経済に大きなプラス効果があることになる。しかし、これで景気がどんどん良くなっていくと期待するのは、早計である。
実は、「経済効果」としてマスコミで取り上げられたものを見ると、ある出来事のプラスかマイナスの一方の効果だけを取り上げて、反対側の効果が無視されていることが多い。

例えば猛暑を見てみよう。近年で猛暑とされた94年度や冷夏であった93年度、2003年度の消費を見ると、猛暑の年には夏物商品の消費が増加し、冷夏の年には夏物の消費が落ち込んでいる。しかし、逆に夏物以外の消費は、冷夏の年の方が堅調で猛暑の年には抑制される傾向にある。2003年の冷夏では、通常夏季には売れ行きが悪いシチューの材料やおでんなどの食品の売れ行きが好調であった。猛暑の経済効果では、エアコンや氷菓、清涼飲料水、ビールなど、夏物の売上げの増加を足し上げることが多いが、現実に消費全体を押上げる効果は、これよりもはるかに小さい。

もちろん、どちらかといえば、猛暑やオリンピックが消費の総額を押し上げる方向に働くと考えられるが、現状では仮にそうした働きがあったしても、効果が小さくなっている可能性が大きい。今回の景気回復では、雇用者所得が減少傾向を続ける中で、失業率の低下など、雇用環境の改善を反映した消費者マインドの改善による消費性向の上昇に支えられて、消費の回復が続いてきた。このため家計貯蓄率は大きく低下しており、猛暑やオリンピックによってさらに消費性向が上昇し消費が増加するという余地は、小さくなっているからである。


3.異常なのが正常

「異常」の定義は、気象庁によれば「過去30年間に発生しなかったような現象と異常気象」ということだ。30年に一度と言えばめったに起こらないはずだが、実はそうでもない。一つ一つが起こる確率が30年に一度でも、大雨や強風、干ばつ、冷夏、猛暑、暖冬、寒波など様々な種類の異常を考えると、何年かに一度は何らかの異常気象に遭遇することになる。さらに地震、戦争、暴動、選挙なども加えれば、ほとんど毎年のように何か特殊なことが起こって、その経済効果が働いていることになる。

個々の企業や産業にとっては、猛暑や冷夏などの異常気象はビジネスの大きなチャンスや危機となる。従って、「異常」が引き起こす効果を見極めて、経営に活かすことが重要となってこよう。しかし、日本経済全体で見れば、プラスとマイナスがあいまって、実は景気を左右するような大きな影響があることは少ないと考えるべきだろう。



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