コラム
2004年08月09日

子育て社会で大切なこと

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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○ 少子化対策「やさしい町」づくり

30日以上の真夏日が続く東京の異常さがそうさせているのかもしれないが、最近子供と出かけるたびに「いらいら」した自分を感じている。まだ子供が小さいので、出かけるときはいつもベビーカーを利用する。いらいらする場面は、
  • 駅に行ったときエレベータがなく、子供とベビーカーを担いで階段を登った時
  • デパートなどに子供ものを買いに行ったときに、エスカレーターはベビーカー禁止です。じゃあエレベータを待つかといってもいつになっても乗れるスペースのあいたエレベータが来ない時
  • 駐車場で子供を下ろそうかと思っても、この狭さでどうやってぶつけないで、おろすのと感じた時
  • 道路を歩いていると段差が多く、いちいちベビーカーを持ち上げなければならない時
などなどである。ベビーカーを使わなくなれば、いらいらしなくなることも多いだろうが、子育てではベビーカーは相当な期間必需品だ。

HPなどを見ると政府だけではなく、各自治体などいろいろ「子育てにやさしい町」に向けての取り組みが行われていて、その多さにはびっくりする。確かに、着実な取り組みのおかげで昔に比べれば上記いらいら場面も改善してきているはずだと思うが、どうしても「ぜんぜんやさしい町づくりは進んでないじゃないか」と文句を言ってしまう。

○ 子育て支援ってこんなこと?

最近テレビでも年金問題が多く取り上げられていることもあり、その背後にある少子化問題関連も多く報道されている。少子化を食い止めるために、特に女性就労上の問題が取り上げられ、海外では男性も子育てに参加しているという状況なども紹介されている。

そんなテレビを観ているときだったか、普通の会話の中だったか定かでないが、妻に「今日電車を降りるときに、男性にベビーカーの前をもってもらった。うれしかった。」と言われた。そして、「いつもいらいらばかりでなくて、そういう時にちゃんと手伝ってる?」とたたみかけられたのである。ふとわれに返ると「???」であった。・・・子育てにやさしい町づくり、つまり母親の子育て支援を考えるときは、こんなところにも目を向けるべきなのではなかろうか。

○ 男性の意識の変化

確かに、少子化を食い止めるためには、子育てに対してのハンディーなり障害なりを軽減していく環境づくりが必要だろう。この点から言えば、いろいろなインフラ整備や制度の改善などはどんどん進められるべきだ。しかし、器が整っても、結局のところ男性の子育てに関する意識が変化しない限り、何も変わらない部分も多いのではないかと感じるようになってきた。
政府の対策案では男性の子育て休暇の取得などがうたわれているが、実際の取得者は増加傾向にあるとはいえ極めて限られている。会社制度など抜本的な社会全体の仕組みが変わらない限り、この状況はさほど改善されないだろう(だからいいというわけではなく、官民あげて着実に時間をかけて取り組むべき課題ではあるが)。

ちょっとした電車の乗り降り時のサポートなどは、「意識」を変えればすぐにでもできよう。しかしこのような意識の変化こそが、社会全体の仕組みを変えていく、実は最大の原動力ではないだろうか。いわば、インフラ・制度のハード面を補完する子育て社会の大切なソフトウエアの源(みなもと)なのだろう。要は気持ちの持ち方と思い、「意識」しながら日常生活を送っているが、なかなか変わることのできない自分に「いらいら」しているのかもしれない。
 

 
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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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