コラム
2004年06月21日

長期金利の上昇をどう考えるか

経済研究部 専務理事   櫨(はじ) 浩一

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1.上昇した長期金利

6月の金融経済月報で日銀の景気判断が上方修正されたことで、長期金利は一時1.9%台にまで上昇した。昨年6月に0.4%台にまで低下していたことから見ると大幅な上昇に見える。しかし、1999年からのゼロ金利政策下では現在と同じように短期金利がほぼゼロであったが、長期金利は1.7~1.8%程度の水準であったことと比べて、それほど異常に高い水準とは言えないだろう。もともと昨年前半の長期金利の低下は債券価格のバブルという要素が大きく、将来の短期金利の予想では説明できないレベルにまで低下していた。2003年秋ころには1.3~1.4%程度の水準になっていたのであるから、そこから現在の水準への金利上昇幅は実はそれほど大きなものではない。


2.長期金利上昇の問題点

長期金利の上昇が引き起こす問題としては、(1)企業や家計の利払い負担が増加し景気回復やデフレからの脱却ができなくなる、(2)国債の利払い負担が増加し財政赤字が拡大する、(3)債券価格が下落し金融機関などが大規模なキャピタル・ロスを抱えることになる、などの点が指摘されている。
長期金利の上昇がデフレ圧力の低下や景気の回復と足並みをそろえたものであれば、企業収益などへの影響は吸収可能で、景気回復の腰を折るようなことはないはずだ。また、家計部門全体では借り入れより預貯金の方が多いので、金利の上昇は負担増よりは利子収入の増加に働くはずである。もっとも個々の家計の影響については、話は別である。最近の住宅ローンの利用では、変動金利や3年程度の比較的期間の短い金利固定期間のものが選択されていることも多いようだ。長期金利が急速に上昇した場合に、数年後に住宅ローンの利用世帯に負担増の影響が出てくる恐れはある。
財政への影響については、デフレ脱却や景気回復による税収の増加と、金利上昇が同時に起こるのであれば、それほど大きな問題にはならないだろう。問題は、金融市場が先を読んで、デフレの脱却が実現する前にかなりの長期金利の上昇が起こってしまうだろうという点である。実際に税収が増加する前に、長期金利が上昇して利払い負担の増加から財政赤字は一時的に膨らんでしまう恐れが大きい。
最も深刻な問題は、長期金利の上昇によるキャピタル・ロスによって金融機関や企業が損失を被ることになることだ。デフレからの脱却によって株価や地価なども上昇し、収益も増加しているだろうから、緩やかな金利の上昇であれば損失は相殺が可能だろう。万一大規模な損失が発生しても、金利の上昇リスクに備えなかった企業や金融機関の自己責任であると言ってしまうことは簡単だ。しかし、それによって景気が悪化したり、金融システム不安が再発したりしてしまったのでは、これまでの苦労が水の泡である。


3.「出口」に向けて緩やかな長期金利上昇が望ましい

長期金利が上昇することで発生する問題を避けるために、今後ある程度の期間は長期金利の水準を押さえ込むことはできるかもしれない。たとえば量的金融緩和の解除時期がもっと先であるという期待を作り出し、いわゆる「時間軸効果」によって長期金利の低下を促すことはできるだろう。しかし、今の段階で長期金利を低く抑えていればそれだけ量的金融緩和の解除時の長期金利の上昇幅は大きくなってしまい、それだけショックの規模も大きくなる。量的金融緩和の解除時期の予想が狂えば、予想外のキャピタル・ロスを金融機関などが被ることになり、発生する問題は大きなものになってしまう恐れが大きい。
デフレ脱却の期待だけで長期金利が上昇し始めることのマイナスは、確かに無視できない。とはいえ、量的金融緩和政策を解除すれば、その時点で長期金利はかなりの水準に上昇するはずだ。結局のところ、金融市場がこれを見込んで、実際にデフレからの脱却が実現する前から長期金利が緩やかに上昇してしまうことを放置する方が、無理やり長期金利を押さえ込むよりも問題が少ないのではないだろうか。

消費者物価指数の下落幅縮小と景気回復力が増していることの確認によって、量的金融緩和政策の解除が遠くないという見方は増えている。時間軸効果が弱まって長期金利が上昇し、イールドカーブが立ってくるのは当然のことである。10月の日銀展望レポートで来年度の物価見通しが発表され、審議委員の大勢見通しでも消費者物価上昇率がプラスとなる可能性がある。こうした思惑からデフレ脱却の期待がさらに高まって、これから秋にかけて長期金利にはさらに上昇圧力が加わることになるだろう。もっとも、基礎研の見通しでは米国や中国経済の減速に加えて家計負担の増加などから、2005年度には景気が後退に向かう恐れが大きい。この見通し通りになれば、デフレからの脱却によって量的金融緩和が解除されるのは2006年度以降ということになり、長期金利は落ち着きを取り戻すことになるだろう。
 

 

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