コラム
2003年12月08日

公開買付(TOB)マーケットは変貌する

  小本 恵照

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1.増加する公開買付

公開買付(TOB)は、不特定多数の者に対し買付価格や買付期間を記載した公告を行い、証券取引所外で株券の買付を行う行為である。公開買付制度は1971年の証券取引法の改正によって導入されたが、公開買付の10日前までに公開買付届出書を提出することが義務づけられるなど使い勝手が必ずしもよくなかったため、実際に公開買付が行われたのはその後の20年間でわずか3件であった。1990年の法改正で制度の改善が図られたが、90年代前半は年間数件という利用状況であった。しかし、90年代半ばから、非コア事業を手掛ける子会社売却といった企業再編が進む中で利用が増え始め、1998年度以降は2桁を超え、2002年度には30件を超える水準にまで達している
 

 
2.注目される案件内容の変化

このように公開買付件数の増加は顕著であるが、公開買付の目的や内容も大きく変化していることにも注目しておきたい。変化の内容としては、次の点を指摘することができる。
第1点は、従来は、子会社化あるいは関連会社化を目的に、公開買付によって株式を取得することが最終目的という単純な案件が中心だったが、最近では、完全子会社化あるいはMBO(マネジメント・バイアウト、management buyout:経営者による企業買収)を最終目的に置き、その前段階の手段として公開買付を利用するという複雑な案件が増えていることである。公開買付によって株主総会を支配できる株式を集めたのち、最終目的である完全子会社化やMBOを進めるというわけである。完全子会社化やMBOを実行するためには、持株会社、株式交換・移転制度、会社分割などの手段が同時に利用されることが多い。これらは1990年代末以降に独占禁止法や商法の改正によって導入されたもので、企業再編をよりスムーズに行うために設けられた制度である。こうした企業再編手段の多様化が公開買付を利用した企業再編スキームを増加させたと考えられる。例えば、今年の11月には超硬工具業界の大手である東芝タンガロイに対する、野村プリンシパル・ファイナンスの100%子会社による公開買付が実行されたが、この案件も公開買付後、取得株の一部を経営陣が取得し、そのまま経営を継続するというMBOの一環として行われたものであった。

第2点は、第1点から派生する面もあるが、買収価格が時価に比べてかなり高めに設定される案件が増加していることである。1990年代の案件を調べてみると、買付直前の時価を20%上回る買付価格を設定した案件は20%強に過ぎなかったが、2000年度以降の案件では約半数が該当している。また、逆に時価を20%以上下回る案件は、1990年代には1/3を占めていたが、2000年度以降は14%に低下している。
この変化は次の2つの要因によるとみられる。第一の要因としては、企業価値を高めることのできる(すくなくともその自信を持った)買収ファンドなどの登場である。企業の潜在価値を見抜き、買収というアクションを起こすことができる投資家が着実に増加しているのである。こうした買収ファンドによる買収価格の高騰は経営資源の活性化を図る上で望ましい動きと考えることができる。第二の要因としては、被買収会社の既存株主に対する配慮が挙げられる。公開買付後の完全子会社化やMBOには、株主の減少による上場廃止、株式流動性の喪失、保有株式と現金の強制交換などを伴うことが少なくなく、株主に半ば強制的に売却を強いる結果となることが多い。こうした売却の強制に対する「補償」の意味で高価格を提示していると考えられるのである。
 
3.今後の展開と課題

取日本経済にはようやく回復の兆しが見え、企業収益も改善傾向を示している。しかし、厳しさを増す海外企業との国際競争を勝ち抜き、低水準の利益率を欧米企業並みに高めるためには、日本企業には企業再編・グループ再編を通じた競争力強化が依然として必要である。特にその中でも、手掛ける事業が拡散し事業の絞り込みが不徹底な企業が少なくないことを考えると、コア事業から外れた子会社の切り離しが重要であろう。先の東芝タンガロイのケースも、東芝が中期経営計画の中で、コア事業を(1)パソコンなどのデジタル機器、(2)半導体などの電子部品、(3)重電などの社会インフラに絞り込んだ結果、その領域から外れる東芝タンガロイは自立の途を選択したわけである。公開買付は子会社を切り離す際の有力な手段の一つとして、その利用は今後とも増えるものと思われる。
ただ、取得後の持株比率が1/3を超えるという理由で、必ずしも公開買付手続きが必要と思われない案件にも公開買付の義務が課されてしまうという、現行制度の不備も目立ってきている。ちなみに、米国では、プレミアムを付けた買付価格を提示し広く大衆から買付けることが公開買付の要件となっており、取得後の持株比率は問題とされていない。今年4月には一部運用の見直しが行われたが、前回の法改正から10年以上が経過する中で抜本的な見直しが必要な時期になってきていると言えよう。既に金融庁は証券取引法改正の検討に入っていると報じられているが、早期の改正によってより利用しやすい公開買付制度が実現されることを期待したい。
 

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